なぜ韓国で『スラムダンク』が大人気なのか?「同じ文化を吸収した若者が韓国と日本両国にいる」ことの特別さ
日本、中国、アメリカで、K-POPのCD売り上げの75%を
カリナさんのソロステージには心を打たれた。競争の激しいK-POP界。その中でも、所属事務所のSMエンターテインメントはBoAや少女時代を輩出するなど、超名門だ。彼女がこのステージに立つまで、どんなに高い壁を超えてきたのだろう。 その果てしない努力が透けて見える圧巻のパフォーマンスだった。指の関節一つにまで神経が注がれ、繊細ながらも力強さを感じさせるダンス。たった一人で1万人を超える観客を相手にしていた。隅から隅まで作り込まれた素晴らしいステージだった。 ちなみに、aespaは日本語の曲を一曲も出していない。歌詞はすべて韓国語か英語だ。これまでのK-POPグループは日本デビューのために日本語の曲を出し、日本の音楽番組に出て知名度を上げ、そのうえでコンサートツアーを行うという戦略をとることが多かった。 aespaは日本向けの活動が必ずしも多くないのに、大阪、東京、埼玉、愛知でツアーを行い、10万人以上を集客している。これは驚くべきことだ。 K-POPの側から見て、日本は重要な場所である。最大の市場であるともいえる。2022年の韓国のCD輸出額は過去最高を更新し、約300億円。そのうち、最大の輸出先は日本である。実に36%を占めている。日本に次いで、中国、アメリカが続く。日本、中国、アメリカの3カ国で、K-POPのCD売り上げの75%を占める。 米中対立や歴史認識問題など、各国の政府間関係は親密で良好とは言い難い。それでも、なんのことはない。3カ国の若者たちはK-POPが大好きなのである。筆者自身、友人の日本人学生や中国人留学生とはよくK-POPの話題で盛り上がる。
なぜ韓国で『スラムダンク』が大人気なのか
ここで、日本でのK-POP人気に対して、韓国での『スラムダンク』人気を考えてみたい。 週刊少年ジャンプで連載されていた大ヒット漫画『スラムダンク』を原作とした映画『ザ・ファースト・スラムダンク(THE FIRST SLAM DUNK)』。日本では2022年12月に公開され、興行収入155億円超、1074万人を動員した(2023年8月時点)。『ザ・ファースト・スラムダンク』は韓国でも大ヒットしている。 1月に公開されると、日本のアニメ映画史上最高のヒットを記録。興行収入は400億ウォンを突破し、観客動員数は400万人を超えている(2023年3月時点)。韓国の人口は5174万人で、日本の人口は1億2570万人である(2021年)。両国でいかに『スラムダンク』が愛されたのかがよくわかる。 僕はあるSNSで、「韓国ではなぜ『スラムダンク』がそんなに人気なんですか?」と質問を書いてみた。「子どものころの思い出が蘇りました」というコメントがあったほか、ある30歳の韓国人男性からは興味深いコメントをもらった。 「映画を見てとても感動しました。小さいころには漫画を読んでいましたね。みんなで一緒に読んでいましたよ。当時は日本のアニメがとても人気で、『ドラゴンボール』も流行りました」 コメントをくれた方はちょうど30歳で、僕と同い年。小学生の頃は2000年代の前半だ。僕が小学生のとき、韓国の本屋に行くと、『ドラゴンボール』と『スラムダンク』のコミックスがずらりと並んでいたのを覚えている。 なにより、『スラムダンク』は韓国式にローカライズされた。主人公の桜木花道はカン・ベクホ、流川楓はソ・テウン。名前が韓国式にされたのである。 『スラムダンク』人気には、韓国政府のある政策が関係している。1998年、当時の韓国大統領である金大中が来日し、衆議院での演説で「日本の大衆文化解禁の方針」を表明した。 金大中大統領と日本の小渕恵三首相は、新たな日韓のパートナーシップを構築する「日韓共同宣言」を打ち出した。それ以降、韓国では日本文化が解禁され、幅広く受け入れられた。現在にまでつながる『スラムダンク』人気の裏には、「日韓共同宣言」の影響がある。 近年の日韓関係は「戦後最悪」といわれるほど悪化した時期があった。しかし、「戦後最悪」の日韓関係のなかで、日本ではK-POPが爆発的に人気を博し、韓国では『スラムダンク』の映画が記録的なヒットとなっている。このアンビバレンス(相反する現象)はどのように理解したらいいのだろうか。