【新刊】韓国初、アジア女性初のノーベル文学賞受賞ハン・ガン氏による記憶文学の極北『別れを告げない』など4冊
秋が深まり、紅葉の見ごろを迎えている。お出かけ時の移動や待ち時間にも読みたい、おすすめの新刊を紹介する。
『別れを告げない』/ハン・ガン著/斎藤真理子訳/白水社/2750円 作家の「私」は友人で映像作家のインソンから連絡を受け病院に駆けつける。木工もする彼女は指を切断、3分ごとに患部を針で刺す治療に耐えていた。彼女の頼みで「私」は彼女の故郷済州島へ。そこに霊じみたインソンが現れ、亡母のオーラルヒストリーとして虐殺事件(1948年「済州島四・三事件」)を生々しく語る。面白いという言葉が不謹慎に思えるほど粛然たる秀作だった。 『恋とか愛とかやさしさなら』/一穂ミチ/小学館/1760円 啓久の求婚に「はい」と答えた新夏。翌日啓久が盗撮で捕まったことを知る。啓久は出来心だと反省するが、新夏は芽生えた不信を持てあます。男女で非対称になったこの軽重を優しく残酷にあぶり出す恋愛小説。収録のもう一編にこうある。“外に出た男には七人の敵がいると言うが、令和では改訂すべき。外に出た女には七人の変態がいると”。男女ともに苦しむやっかいな真実だ。 『蔦屋重三郎 江戸を編集した男』/田中優子/文春新書/1100円 来年の大河ドラマは蔦屋重三郎。知識があると面白みが増す。冒頭で著者は笑わせてくれる。蔦重は優れた編集者(=企む者)だった。企みとは企画・目標・目的。どれもカネを得るため。しかし編集者にカネは降ってこない。カネがかかるだけだ、と。蔦重は場所や人を編集した。吉原遊郭、狂歌、喜多川歌麿や写楽。入門書としては最適。でも田中先生、図版多めのもう一冊を! 『エレジーは流れない』/三浦しをん/双葉文庫/803円 餅湯温泉の商店街の店舗の上で母と2人暮らしの高2の穂積怜。干物店の息子竜人、喫茶店の息子和樹、サッカー部の心平、旅館の息子翔太などとつるむ日々だ。そこに博物館から縄文式土器が盗まれる事件が起こる。男子高校生を描き分ける著者の筆は、おバカな男子フェチと呼びたくなるほど愛が滴る。何も起こらないが、思春期の心はざわざわ事件でいっぱい。あ~楽しかった。 文/温水ゆかり ※女性セブン2024年11月28日号