1クラスにALTが6人 「奇跡のまち」桁違いの英語教育
岡山県北部に位置し、鳥取県と県境を接する人口約5500人の奈義(なぎ)町。子育て支援に力を入れ、2019年の合計特殊出生率(1人の女性が生涯に産む見込みの子どもの数)が2.95となり、昨年は当時の岸田文雄首相も視察するなど「奇跡のまち」と全国で注目を集めた。その奈義町がいま、力を入れているのが英語教育だ。 【写真】「奇跡の英語のまち」をつくった奈義町教育長 11月9日午後、奈義小学校3年2組の英語の授業。児童19人のクラスに、女性の担任のほか、外国人のALT(外国語指導助手)6人が集まっていた。 ALTが「How are you today?」と問うと、われ先にと「はーい」と多くが手をあげ、あてられた女児が「I feel hot」と元気よく答えた。後半はグループに分かれたが、児童ほぼ3人に1人の割合でALTがつき、「ミッキー」「マサヤ」と名前で呼びあい、英語と日本語で身ぶり手ぶりで会話する。 全児童290人の奈義小学校は1学年あたり1人、計6人のALTが配置されている。「週1回の各学年の英語授業に今は6人全員に出てもらっている」(加治裕代校長)。今では校内で英語が聞こえてくるのが、当たり前の日常になったという。 奈義中学校(全生徒139人)でも各学年で1人ずつ計3人のALTが配置され、こども園(0歳児から5歳児まで221人)の3~5歳児に対しても3人のALTがつき、英語を教えている。 さらに小学5年生から中学3年生を対象に、オンラインでのマンツーマンレッスンも年間10~20回行う徹底ぶりだ。 小学校3年生から週に1時間の英語教育が始まる一般的な公立校と比べ、奈義町では、こども園の3年間と小学校1~2年生時までに200時間以上多く英語の授業を受けられるようにする計画だ。 奈義町に配置されたALTの12人はすべてフィリピンから招いた20~30代の女性で、現地の小学校教諭の資格、実務経験があることを配置条件としているという。 ALTは1日8時間の勤務。朝、日本の教諭と一緒にあいさつに立つ。給食の準備や掃除なども児童・生徒と一緒にする。中学校で教えるALTのレニータさん(28)は「生活に慣れ、子どもらの顔や名前も覚え、仲よく話せるようになった」と話す。 文部科学省の昨年度の統計によると、学校に配置されるALT1人あたりが担当する児童・生徒数の全国平均は、公立小学校で1千人に対し2.9人、中学校で2.7人。1人のALTが複数の学校をかけもちすることも多いという。 都道府県(政令指定都市を除く)で配置割合のトップは、小学校が宮崎県で千人あたり6.7人、中学校は高知県で7.6人。政令指定都市では小学校が静岡市の4.3人、中学校は熊本市の3.3人だ。 これに対し奈義町は小学校は48人に1人、中学校46人に1人、こども園では44人に1人。千人あたりに換算すると20人超となり、全国レベルを大きく上回る。 ALTに詳しく、同町の英語教育スーパーバイザーを務める同志社大学グローバル地域文化学部の坂本南美准教授は「生徒数に対するALTの多さでは、知る限り奈義町は日本一。小さな町の特性を生かし、充実した内容になってきている」と語る。(編集委員 森下香枝)
朝日新聞社