人手不足が深刻すぎる社会で、日本企業がこれから世界と戦っていける「たった一つの方法」
この国にはとにかく人が足りない!個人と企業はどう生きるか?人口減少経済は一体どこへ向かうのか? 【写真】日本には人が全然足りない…データが示す衝撃の実態 なぜ給料は上がり始めたのか、人手不足の最先端をゆく地方の実態、人件費高騰がインフレを引き起こす、「失われた30年」からの大転換、高齢者も女性もみんな働く時代に…… 話題書『ほんとうの日本経済 データが示す「これから起こること」』では、豊富なデータと取材から激変する日本経済の「大変化」と「未来」を読み解く――。 (*本記事は坂本貴志『ほんとうの日本経済 データが示す「これから起こること」』から抜粋・再編集したものです)
論点5 自国の比較優位をどこに見出すか
人々の生活を豊かなものにするためには、イノベーションによる生産技術の向上が不可欠である。そして、そのためには企業間の健全な競争が不可欠である。多くの企業が自社の利益を確保するために切磋琢磨し、その結果として日本経済全体の供給能力が向上することで、消費者はこれまでよりも豊かな消費生活を送ることができるようになる。 今後、特定の事業者に事業が集約化されていくことになるのだとすれば、そのときにいかにして健全な競争環境を維持していくかということは、これからの重要な課題になるとみられる。 たとえば、建設業界や運輸業界などに関してみれば、自働化施工や自動運転に関する技術が浸透する未来において、資本力に優れた企業が新しい技術を活用し、作業の標準化に取り組むことでシェアを拡大していくことになると予想することができる。将来的には、プラットフォーマー企業がその業界の利益の多くを占有する事態になる可能性もありうる。 すでに情報技術産業では米国ビッグテックが世界市場を席巻し、少数のプラットフォーマーが市場で発生した利潤のほとんどを独占する事態となっている。実際に、情報通信サービスの分野をみれば、検索エンジンやSNS、ECサイトにいたるまで多くの事業領域が少数の事業者によって独占されており、このような状況が望ましい競争環境であるのかということは疑念も残るだろう。 この点に関して、外資系の企業に市場の多くを席巻されていることに課題があるという意見も多くある。しかし、それが公正な競争によるものであれば、単に海外企業が国内企業よりも優れたサービスを生み出したというだけであって、それを社会全体として問題視するのは道理ではない。一方で、そうではなく、こうした企業によって市場の公正な競争環境が損なわれているのであれば、政府としては必要な介入を行わなくてはならない。 こうした領域に関して、日本は米国企業が生み出したサービスを利用するユーザー側の立ち位置を強めている。そして、これらの領域で国内市場が米国企業によって独占されているということは日本だけの問題ではない。 欧州などほかの先進国も同じような課題を抱えているのである。この点に関して欧州では、プラットフォーマーが支配的な地位を乱用してビジネスを行っているとして、EU競争法に基づいて企業に多額の課徴金を課すなど、対決姿勢を強めている。 日本に関しては現状ではこうした動きは限定的であるが、デジタル赤字が拡大している現状において、国内事業者の利益の漏出やこれに伴って国民所得の向上が抑圧されるといった問題は、今後さらに深刻になっていくだろう。国内市場の健全な競争環境を回復させるためにも、国際課税の枠組みなども含めて、政府としては外交面も含めた戦略的な対応が必要になっていくとみられる。 そして、国際経済の観点から見たより本質的な課題として、日本経済の世界的なプレゼンスが低下していくことが確実な将来において、自国の比較優位をどこに見出していくのかということを考えていかなくてはならない。おそらく基本は内需を中心とした組み立てになってくるはずだ。つまり、人口減少社会は、AIやロボットなど先進技術を活用した省力化の利益を強く受ける社会でもある。 現在の技術革新のトレンドは日本社会の抱えている課題と相性が良く、この市場に関しては、日本は恵まれた立ち位置にあるといえる。今後、先進国の多くが人口減少で日本の後を追うことは確実であり、先進技術を用いた自動化技術は一大市場になるだろう。 日本で米国ビッグテックのような企業を作ろうというのは現実感のない目標であるかもしれないが、たとえば産業用ロボットは日本の得意とする市場であり、センサーや半導体製造装置など要素技術において世界に誇る日本企業はたくさんある。こうした技術の一部を確保し、省力化モデルをデファクトスタンダードとして世界に発信していくためには、市場メカニズムによる企業間の健全な競争が不可欠であり、加えて政府による適切な支援も必要になってくる。 人口減少経済において、すべての技術領域、すべての市場を日本企業が押さえることは不可能である。日本の技術で世界をリードしていく分野と、ユーザーとして海外の技術の恩恵を享受する分野との選択と集中がますます必要になっていく。人口減少経済において産業戦略をどう構築し、競争政策をどのように適用していくかは今後必要な論点になるはずだ。 つづく「多くの人が意外と知らない、ここへきて日本経済に起きていた「大変化」の正体」では、失われた30年を経て日本経済はどう激変したのか、人手不足が何をもたらしているのか、深く掘り下げる。
坂本 貴志(リクルートワークス研究所研究員・アナリスト)