八村塁はホーバスジャパンに何をもたらすのか ”日本最高プレイヤー”によるプラスアルファを考える
NBA選手と「代表」は相性が悪い。NBAはシーズンが長く、W杯予選と無関係に公式戦が組まれる。オフに開催される世界大会にはNBA選手も参加するものの、代表活動に関する「28日ルール」と称される労使協定があり、事前合宿への参加日数が制限される。 【動画】まるで魔法だ! フィンランド守備陣を翻弄した河村勇輝の絶妙アシスト 八村塁(ロサンゼルス・レイカーズ)はそんな条件下で、3年ぶりに日本代表チームに復帰した。 2019年のW杯は新人選手としてワシントン・ウィザーズに加入する直前で、1次リーグの3試合のみでチームを離れた。21年の東京五輪には参加しているが、レイカーズ加入直後の23年に開催されたW杯は欠場している。彼は年82試合の過酷なリーグに全力を注ぎ、足場を築くことを求められていた。 八村は合流が遅く、またシーズン中の消耗を考慮してトレーニングを進める必要があった。日本の大会初戦は7月27日のドイツ戦だが、国内最後の強化試合となる7月5日、7日の韓国戦も出場を回避した。 日本は渡邊雄太の負傷欠場もあり、若手中心だった韓国との2試合を1勝1敗で終えることになった。 ヨーロッパへ移動後にも練習試合は予定されているが、日本代表は「ぶっつけ本番」に近い状態で五輪に臨むことになる。バスケットボールはいうまでもなくチームスポーツで、攻守ともに役割分担や決めごとがある。そのためにある程度の時間が必要だ。 渡邊は昨年のW杯に出場していて、トム・ホーバスヘッドコーチ(HC)のスタイルを既に経験している。パリ五輪に登録された12選手のうち8名はW杯と同じ顔ぶれで、既に関係性が出来ている。しかし八村はホーバス体制下初の代表参加で、「適応のための時間が短すぎる」という指摘は妥当だろう。 それでも八村の合流によるメリットは大きい。彼は1試合平均の出場時間が26.8分、13.6得点、4.3リバウンドを記録しているNBAの強豪レイカーズの主力で、どう考えても日本最高のプレイヤーだ。 相手は「まず八村を抑えよう」という狙いを持ち、マークが彼に引き寄せられる。要は八村がボールを持つだけで、他の選手が空く。コートに立つことがそのままチームへの貢献になる。 日韓戦の日本は3ポイント(3P)シュートの成功率低迷に苦しんだ。84-85で敗れた5日の試合は「31.4%」で、88-80と勝利した7日の試合も「29.2%」にとどまっている。しかも7日は試投数が「24本」と少なかった。 7日の試合後に、ホーバスHCは日本語でこうコメントしている。 「3Pシュート……分からない。入らない。空いているシュートが入らない。それはもう直さないと、目標達成は難しいと思います。本当に29%では足りないです」 パリ五輪における日本の目標はベスト8入りで、そのためには「グループBの3位以上」「1勝以上」が絶対条件。W杯の参加は32か国だが、五輪は「12」に絞られ、目標クリアのハードルが明らかに高い。 グループリーグで対戦する3か国(ドイツ、フランス、ブラジル)はいずれも日本よりサイズがあり、インサイドのアドバンテージは取れないだろう。となれば「アウトサイド」が勝敗を分ける生命線になる。 日本が五輪で勝つ条件は、大まかに言えば「1試合に40本は3Pシュートを放ち、40%の確率で決める」ことだ。 八村が入ることで他の選手、特にアウトサイドのシューターが空く――。そこが明確なメリットだ。レイカーズではレブロン・ジェームズという「王様」がいるため、オフェンスを組み立てる仕事は任されていない八村だが、実はパス能力が高い選手でもある。八村の存在からオフェンスの「歯車」が噛み合い始める期待は高い。 さらにいうと八村も2023-24シーズンのNBAで「41.2%」と極めて高い3Pシュート成功率を記録している。203cm・104kgの彼はインサイドでもアウトサイドでも危険なオールラウンドプレイヤーだ。26歳の彼は経験値も上がっていて、レイカーズにおけるレブロンの役割を日本代表で果たし得る。 ホーバスHCも7日の試合後にはこう述べていた。 「勝って良かったけど、まだまだこのチームが上手にできていない感じです。でも塁と雄太が入って、チームのコンビネーションは全然変わります」 [文:大島和人]