あなたの不満を誰に託す? 田村淳が抱く選挙への期待と葛藤
政治には苦しい生活を変える力があると知ってほしい
――以来、ずっと投票に行かれるようになった。周囲に呼びかけることもあるんですか。 そうですね。「投票に行きました」と僕がSNSで発信することで、「ああ、淳が行くんだったら行こうか」って思う人が増えたらいいなと思って、以前はツイッターでつぶやいていたんですけど、投票所の近くで写真を撮ると住所がバレるっていうのを知って、そこからやめています(苦笑)。だから違うアプローチの仕方で「選挙に行こう」という訴えを、ツイッターとかでもしたいなと思っています。 ――では、自分の一票についてどうお考えですか。 自分の一票で何かが変わるって考えること自体が、僕はおこがましいなと思っていて。それでも、この一票を投じないと何かが変わらないんだという意識を持つことが大切だと思います。日頃からニュースを見て、政治にちょっとでもコミットしておかないと、そういう意識って芽生えないですよね。だから急に、選挙が始まりましたと言って、普段投票に行かない人に投票を呼びかけても、そりゃあ行かない。メディアはこぞって直近になってから「選挙に行くためには」って論じ始めますけど、それはもう焼け石に水。そんなことで選挙に行くんだったら、投票率低下の問題はずいぶん前に解決しているでしょう。なぜ選挙じゃない時期からその下地をつくっていかないのかなっていうふうには思いますね。 僕が政治に興味を持ち始めて選挙に行くようになったのは、やっぱり誰かに行けって言われたからじゃなくて、行かないとダメだなって自分で気づいてから。そこからはもう毎回行くようになったので、ここの気づきをどうやって作れるかというのを、選挙期間じゃない時にやるべきだし、メディアでどれだけ「行こうぜ、行こうぜ」と促したとしても響かない。 興味ない人がちょっとでも政治に参画するようにするには、ネット選挙、投票システムを新しく作るのが有効な気がします。たとえば、インターネット投票できるようにするとか、スマホやコンビニからでもできるようにするとか。ワクチンをマイナンバーで管理できるのであれば、自分の一票もマイナンバーで管理できるはずですし、すでに技術的には可能で、あとは合意形成だけと聞いているので、そこを早く進めてほしいですね。 ――選挙に行っても行かなくても世の中変わらない、という考えの若者も多いです。 有権者ひとりが投じることができるのは一票。20代が全員行ったとしても、60~70代の半分と互角になる場合もあるかもしれない。けれど、若者が選挙に行けば、世代別の投票率はグンと上がります。この“投票率が上がる”っていうことを政治家に示すことで、政治家は初めて「あそこの層を押さえとかないと今後政治家を続けられない」という緊迫感が生まれてくる。そういった観点で、ぜひ投票行動をしてほしいですね。 ここにはいろいろ意見があって、きちんと勉強してから投票に行けと言う人もいるけど、僕は「何も考えずに投票に行ってもいい」と思っちゃう。まず経験してみようと。若者20代の投票率が今回70%でしたという結果が出たら、政治家はもう無視できない。絶対に20代のパワーを感じるはず。そういった意味でも、僕は行ったときのメリットと、行かないときのデメリットを、それぞれが落ち着いて考えてほしいと思います。 ――若者に投票してもらうにはどうすればいいのでしょう。 僕はもう40代後半なので、20代の人の気持ちになること自体が実は失礼なんじゃないかと。まあ、なろうとしてもなりきれないですしね。それに、今こんなにつらい状況のなかで、20代の人たちが怒りを持っていないんだったら、もしかしたらその人たちは幸せなんじゃないかと思ったりもします。いや、この「不満を持って」「怒りを持って」という言い方だって、きっと今の若者には刺さらないですよね。 政治に前向きになってもらうためにも、20代の人たちには選挙での成功体験を味わってほしいです。で、投票した人たちにそういった成功体験を与えられるのって、やはり政治家しかいないと思っています。 ――結局は、政治家に託していくことになると。 世の中大変なことが多くて、悩みや苦しみもたくさんある。けれど、自分の生活が本当に苦しいとき、政治をやっている人は、それを変える力を持っているんだってことを知るべきだと思います。 あなたの苦しいことって、ツイッターでつぶやくぐらいじゃ何も状況が変わらない。不平不満をつぶやくのが、ダメだって言っているわけじゃないです。でもその熱量があるのならば、あなたの気持ちを一票にかえて、誰に託せばその思いが昇華するのか、ということを考えればいいんじゃないかなと。 でも、投票に行ったからといってその思いが昇華するとは限らない。実際、僕はそれをずっと経験しています。それでも一票を投じに行くことで、40代の投票率を上げることができます。そういう意味で、僕は行ってますね。それで、社会の一員であることも自覚できます。