京口が最軽量のコンプレックスをバネに日本最速世界王者
世界戦を直前にショッキングな事件があった。 3つ上の兄の竜人(26、グリーンツダ)が12日に大阪市内で飲酒運転の疑いで接触事故を起こして逮捕されたのである。兄の竜人は、2011年にフェザー級の全日本新人王を獲得したが、2015年10月には傷害容疑で逮捕され1年間のライセンス停止処分を受けてジムを移籍。罪を懺悔して再起戦を飾ったばかりだった。 両親は、弟の世界戦への影響を心配したが「俺は大丈夫だから」と連絡をしてきたという。 「私たちよりも、肝っ玉が座っているのかもしれません」と、母のかおりさんは言う。 兄弟で空手をはじめ、大阪帝拳に所属していた兄を追い、同ジムに中学で入門して「じょーちゃん」と慕う辰吉に教えを請い、世界王者を夢見た。本来なら、その兄にもリングサイドから両親と共に見守って欲しかったのだろうが、弟は複雑な思いを胸にしまいこんで、世界戦のリングに立ち試練を乗り越えた。 京口はリング上のインタビューを「お父さん、お母さん、丈夫な体に生んでくれてありがとう」という言葉で結んだ。観客戦にいた父の寛さんは涙が止まらなかった。 空手道場を主宰している父が格闘技の道へと息子を導いたが、母のかおりさんは、「体が丈夫になった理由は、我が家のスパルタ教育です」と豪快に笑う。ルールを破ると容赦なく鉄拳制裁。「お尻を叩くんです。それでも、逆にほめるときはギュッとハグをします」。16歳になるまでハグを続けたというが、両親の愛情を一身に受けて、京口は強くなった。 「マイペースな性格。小さい頃は、あんなにおしゃべりでもないし、人の陰に隠れるような子供でした。でもチビと言われるのが嫌いでねえ。空手でも体が小さいと勝てないし優勝もできない。敏感にその言葉に反応していたけれど、ボクシングは、階級が細かに分かれて、チビであることが関係ないし、むしろ有利でしょう。もうチビという言葉に反応しなくなりましたね」と、父の寛さん。 コンプレックスを武器に変え、今世界の頂点へ。井上尚弥、田中恒成という2人の天才ボクサーが作った19か月を超える15か月のスピード出世。しかも、8戦目での世界王者奪取は、あの辰吉と同じだ(最短記録は田中の5戦目)。 しかし、京口に驕りはない。 「今は、辰吉さんの時代と違って、世界のベルトは4団体ですし、しかもミニマムはチャンスが巡ってきやすい階級。それでもチャンスを作っていただいた会長に感謝します」 ミニマムの階級のスケールを越えるような強打とファイティングスプリッツで、難敵王者から奪い取ったベルトの価値は高い。また個性派のニュースターが誕生したが、ここはゴールではなくスタート地点。そしていつの日か、尊敬する辰吉を超えなければならない。 (文責・本郷陽一/論スポ、スポーツタイムズ通信社)