〈Gacha Pop〉誕生から1年 プレイリストの躍進を象徴する5組、海外展開の新たなトレンド
昨年5月のローンチ以来、大きな注目を集めてきた〈Gacha Pop〉。J-POP、シティポップ、アニメ、ゲーム、ボカロ、VTuberなど多様でカラフルな日本の音楽カルチャーを世界に届けてきた同プレイリストは、この1年でどのような成果を残してきたのか。エンタメ社会学者・中山淳雄に解説してもらった。 【画像】データで分析、日本人アーティストの海外展開
海外リスナーが8割、世界で聴かれている〈Gacha Pop〉
2023年5月にSpotifyはプレイリスト〈Gacha Pop〉を公開した。折しもそのタイミングはYOASOBI「アイドル」が主題歌となってアニメ「推しの子」人気とともに世界を席巻していたタイミングである。「What pops out!? Roll the gacha and find your Neo J-Pop treasure.(何が出るかな!? ガチャを回して新しいJ-POPのお宝を見つけてね)」という形でJ-POPの枠組みを解き放ち、Ado、YOASOBI、imase、米津玄師、ずっと真夜中でいいのに。、なとり、藤井 風、新しい学校のリーダーズなどの楽曲が75曲並べられている。 すでに世界で6.15億人の月間アクティブユーザーがおり(2024年Q1)、有料プレミアム会員が2.4億人とほぼNetflixと変わらない規模になっているSpotifyは日本の音楽にとって世界に届けられる希少なプラットフォームである。だが日本の楽曲がメインのプレイリストには、「日本の中で聴かれている」ものもまだ多い。その中で、キラ星のように海外ユーザーが殺到しているプレイリスト――それが〈Gacha Pop〉なのだ。 2023年に始まった〈Gacha Pop〉は、Spotify Japanの芦澤紀子氏の言葉を借りれば、ローンチから1年も経たないうちに「完全にフラグシップ・プレイリストになった」という。そのリスナーの8割は海外からのものであり、むしろ海外でバズってから日本で人気になった楽曲も含まれている。リスナーの国別リストをみると米国がトップだが、メキシコ・インドネシア・台湾に英独仏の欧州3大国などかなり広い範囲で聴かれていることがわかる。そしてリスナーの半分以上はZ世代で若い世代が中心というところも特徴だろう(日本においてはミレニアム世代が中心)。 そんな〈Gacha Pop〉、日本でもローンチ当初に注目されていたが、実は日本では”配信型”トップアーティストが話題になりにくい事情がある。それは音楽市場が世界と構造的に大きく異なる点があるのだ。日本音楽市場はCD:配信が3:1、いまだに市場の半分以上はCDで売れるかどうかで決まる。日本芸能界たたき上げのトップアーティスト達のなかで、いまだに配信で検索しても楽曲が出てこないアーティストも珍しくはない。これはすでにCD:配信で1:4となって、配信こそが流行の起点となっている世界音楽市場では考えられないことだ(世界でも日本だけが本当にそういう歪な状況にある)。そうなると〈Gacha Pop〉で取り上げられ、世界で聴かれている、はずの日本アーティストが国内オリコンランキングでは10位以内に入ってこない、といったことが起こってしまうのだ。