アルピーヌA110 詳細データテスト 完成度の高いシャシー モアパワーがほしい もう少し安ければ
はじめに
今回のアルピーヌA110Rは、アルピーヌの大きな飛躍を象徴するとともに、A110というスポーツカーにとって意義深い発展でもある。それは、多くのひとびとが思っている以上だ。 【写真】写真で見るアルピーヌA110とライバル (15枚) もちろん、スポーツカー専用モデルのサーキット走行仕様で成功しているライバルもいるが、A110は単なるミドシップ2シーターではない。母国たるフランスでは、特別仕様で大きくパワフルなエンジンを積むなど、安易な性能向上を図ることに厳しいペナルティが課される。また、そういうやり方は、歴史的に見ても、このブランドのクルマづくりのアプローチにそぐわない。 創業者であるジャン・レデレがラリーで修めた成功に端を発し、1960年代のアルピーヌはコンパクトスポーツカーを好んで生み出した。控えめなサイズで軽く、特有のサスペンションチューンを施したそれは、公道を走るのに適していた。そこに、ビッグパワーという要素はなかった。 それから50年を経て、アルピーヌブランドが再興されたとき、同じく公道向けのスポーツカーを生み出した。新生A110はナローで、ホイールサイズは控えめで、楽にコントロールできるミドエンジンのシャシーと穏やかなレートのサスペンションを併せ持ち、パフォーマンスカーの基準を刷新した。 しかし今、絶賛されたベースモデルはそのままに、ディエップではA110の可能性を探りはじめた。2019年にはマイルドなチューンを施したA110Sを送り出し、それに続いて登場したのがよりハードコアなA110Rだ。 A110がライフサイクルの後半に入る中で、バリエーションは最大限まで拡大した。そうして、このクルマをもっともシャープな部類の運動性を持つものへと過激に進化させる機会を得たのである。
意匠と技術 ★★★★★★★☆☆☆
すでに軽量さを極めた2シーターの大量生産スポーツカーをさらに軽量化するには、クリエイティブな発想が必要だ。リアシートはもともとないので、ボディやガラス、サスペンションやインテリアなどから重量を削っていくわけだが、その余地も大きくはない。 A110Rは、A110Sより34kg軽いという。実測したところ、全備重量は1100kgを切る。これは2018年に計測したA110より31kg軽い。 テスト車には、カーボンコンポジット素材を用いた2ピースのデュケーヌ製18インチホイールが装着され、バネ下重量を12.5kg削減。サベルトのハードシェルを用いたシートバック固定式カーボンバケットシートは5kg、ガラスパネルに変わるカーボンのエンジンカバーは4kg、カーボンボンネットは2.6kg、シンプルな構造のスポーツエグゾーストは0.7kgの軽量化を実現。6点ハーネスは、巻き上げ式シートベルトより1.5kg軽い。 残り8.9kgは、アイテムの排除による。ルームミラーやリアバルクヘッドのガラスウインドウは、後方視界をふさぐカーボンエンジンフードの採用に伴い取り外された。また、6点ハーネスにより不要になったと判断されたのが、助手席エアバッグだ。 逆に、サスペンションは1.2kg重くなった。これは、競技車両グレードのコイルオーバーストラットによるものだ。手動調整により、車高は10mm変更でき、伸びと縮みの減衰力は20段階の設定が選べる。 公道仕様のセッティングでは、A110Sより10mm低く、スプリングレートは前後とも10%高い。スタビライザーの横剛性は、フロントよりリアが高められている。コイルオーバーはさらに10mmのローダウンが可能で、純正のサーキット仕様セッティングとすることができるが、今回は試さなかった。 リアのダウンフォースは、標準仕様のA110より110kg増している。主にスワンネックのリアウイングによるものだ。フロントは30kg増。いずれも最高速の285km/hでのデータだ。サーキットセッティングにすれば、いうまでもなく空気抵抗は低減できる。 この空気抵抗低減が、ディエップにとってはとくに重要だ。というのも、多くのサーキット志向モデルとは違って、A110Rはレギュラーモデルに対してパワーアップしていないからだ。ルノースポール由来の1.8L直4ターボは、他仕様と同じく300ps/34.7kg-mを発生。7速DCTのギア比は、A110Sと変わらない。 こうした仕様決めのキーになっているのは、A110R開発中にアルピーヌが行ったユーザーに対する調査だ。フランスではエミッションをベースにした悪名高い税制が敷かれており、高出力スポーツカーのオーナーに多大な出費を強いる。それを避けたいという声が大きかったのだ。