脱炭素よりも貧困対策、化石燃料の自家用発電機に頼らざるを得ない新興国で脱炭素をどう進めるべきか?
■ AIデータセンターの天文学的な電力消費 これら新興国の要因に加えて、先進国を含む全世界的に見て脱炭素に逆行する動きが2つある。 第一は、トランプ氏の主張に見られるような脱炭素に反発・反対する政治勢力の伸長である。 トランプ氏の米共和党だけでない。欧州では、脱炭素を推し進める中でロシアのウクライナ侵攻が起きたことにより、燃料価格が高騰している地域も多い。これらの高騰は低所得、中所得層の家計を直撃している。 これら有権者は脱炭素を唱える政党には投票しなくなっている。「長年言われてきた脱炭素の重要性は理解するが、背に腹は代えられない」のだ。右派ポピュリズムの台頭の背景には、脱炭素への懸念、言い換えれば「脱炭素疲れ」がある。 第二には、AIのデータセンターにおける電力需要の急激な拡大予測である。 特に、生成AIの開発には多くの電力を使うと言われる。ChatGPTの言語予測モデルであるGPT-3を開発するには、原子力発電1基が1時間かけて生み出す電力を使うという。 今後世界各地で生成AIの開発競争が進むとすると、消費される電力は天文学的な数値になることも想定される。 以上の通り、脱炭素を巡っては問題山積である。しかし、このまま温暖化を放置しておくわけにはいかないことには多くの方の合意があることであろう。ビジネスパーソンとして、いかに対応していくべきかを考えたい。
■ 新興国の脱炭素で考えられるビジネスとは 第一に、新興国の脱炭素につながる技術移転を見越したビジネス展開である。 アフリカ諸国をはじめ新興国では今も自家用発電が大きな役割を果たしていることも多い。再生可能エネルギーを安価で活用できる自家用発電は需要が大きいことは間違いない。 筆者は、廃プラスチックから重油を作り出し、電力に変換する自家用発電装置を開発したスタートアップ企業、北浜化学の海外展開を側面的に支援している。アフリカなどの潜在需要は強く、今後のグローバル展開の可能性は大いにあると思っている。 第二に、上記のために国際機関や政府などの資金を活用していくことだ。 アフリカ諸国では、国際機関やNPO、篤志家が多くの支援金を出している。アフリカ諸国を回ると、数多くの国際機関、援助団体が資金提供をしている現場に出会う。 脱炭素という旗印で多くの資金活用がありえるだろう。 世界的に脱炭素に向けた硬直感も漂う一方で、ビジネスパーソンができることは多いことは間違いない。 山中俊之(やまなか・としゆき) 著述家/芸術文化観光専門職大学教授 1968年兵庫県西宮市生まれ。東京大学法学部卒業後、1990年外務省入省。エジプト、イギリス、サウジアラビアへ赴任。対中東外交、地球環境問題などを担当する。首相通訳(アラビア語)や国連総会を経験。外務省を退職し、2000年、日本総合研究所入社。2009年、稲盛和夫氏よりイナモリフェローに選出され、アメリカ・CSIS(戦略国際問題研究所)にて、グローバルリーダーシップの研鑽を積む。 2010年、企業・行政の経営幹部育成を目的としたグローバルダイナミクスを設立。累計で世界96カ国を訪問し、先端企業から貧民街・農村、博物館・美術館を徹底視察。ケンブリッジ大学大学院修士(開発学)。高野山大学大学院修士(仏教思想・比較宗教学)。ビジネス・ブレークスルー大学大学院MBA、大阪大学大学院国際公共政策博士。京都芸術大学学士。コウノトリで有名な兵庫県但馬の地を拠点に、自然との共生、多文化共生の視点からの新たな地球文明のあり方を思索している。五感を満たす風光明媚な街・香美町(兵庫県)観光大使。神戸情報大学院大学教授兼任。 著書に『世界94カ国で学んだ元外交官が教える ビジネスエリートの必須教養 世界5大宗教入門』(ダイヤモンド社)。近著は『世界96カ国をまわった元外交官が教える 外国人にささる日本史12のツボ』(朝日新聞出版)。
山中 俊之