企業年金は資産運用に良いインパクトを与えられるか? アセットオーナー・プリンシプルの策定議論が進展
原則2は、「受益者等の最善の利益を追求する上では、アセットオーナーにおいて専門的知見に基づいて行動することが求められる。そこで、アセットオーナーは、原則1の運用目標・運用方針に照らして必要な人材確保などの体制整備を行い、その体制を適切に機能させるとともに、知見が不足する場合は、必要な外部知見の活用や外部委託を行うべきである」。この項目の「専門的知見に基づいて行動する」という専門性については、企業年金の運用の実体を考えれば、「ジョブローテーションの一環で企業年金の運用部署に配属される担当者もおり、そもそも中小企業などでは兼務担当も多く、運用に関する専門的なスキルを持っていない担当者も少なくない。この原則を全ての企業年金に求められては、ただでさえ企業年金からの撤退が続いている中で、一段と企業年金導入のハードルを上げてしまいかねない」という危惧の声が上がった。
原則3は、「アセットオーナーは、運用目標の実現のため、運用方針に基づき、運用方法の選択を適切に行うほか、投資先の分散をはじめとするリスク管理を適切に行うべきである。特に、運用を金融機関等に委託する場合は、利益相反を適切に管理しつつ最適な委託先を選定するとともに、定期的な委託先の見直しを行うべきである」。これに対しては、企業年金の運用力の向上の議論の中でも、運用委託先のモニタリングや委託策の定期的な見直しについてはガイドライン等でも示されている内容。実際に、それがどれだけ厳格に実施されているかは、これからの課題と認識されている。
原則4は、「アセットオーナーは、ステークホルダーへ運用状況の情報提供(「見える化」)を行うべきである」。これも、企業年金・個人年金部会で議論されている内容に沿っている。企業年金の受益者を、加入者と元加入者というくくりで考えれば、労使合意の下で必要な情報開示がされる体制になっている。
原則5は、「アセットオーナーは、受益者等のために運用目標の実現を図るにあたり、自ら又は委託先である運用会社の行動を通じてスチュワードシップ活動を実施するなど、投資先企業の持続的成長に資するよう必要な工夫をすべきである」。この原則については、企業年金の場合は、スチュワードシップ活動は運用委託先である運用会社が実施し、アセットオーナーの立場では、運用会社のスチュワードシップ活動をモニタリングし、望ましい活動が行われているかをチェックすることになっている。これを原則として義務化されるようになれば、総合型で1つの基金に複数社が相乗りしている年金基金の場合など、個別の事業者がどこまでモニタリング活動を実施するのかという問題が生じる。中小企業の場合は、そのための人材もいないという実体もあり、プリンシパルとして他のアセットオーナーと同様の対応は現実問題として難しいという意見があった。