第94回選抜高校野球 只見、雪溶かす春到来 聖光、夢舞台へまい進(その1) /福島
<センバツ高校野球> 福島に2枚の春切符が届いた。28日に開かれた第94回選抜高校野球大会(毎日新聞社、日本高校野球連盟主催)の選考委員会で、只見(只見町)と聖光学院(伊達市)の出場が決まった。只見は21世紀枠で、春夏通じて初の甲子園出場。部員が選手13人、女子マネジャー2人と少ない中、昨秋の県大会で初のベスト8に進出したことや、豪雪地での練習など困難な環境を克服してきた点が高く評価された。昨秋の東北大会で準優勝した聖光学院は4年ぶり6回目の出場。2校は東北勢初となる甲子園制覇を目指す。組み合わせ抽選会は3月4日。同18日に阪神甲子園球場(兵庫県西宮市)で開幕する。【三浦研吾、玉城達郎、磯貝映奈、肥沼直寛】 ◇21世紀枠 困難な環境克服 午後3時5分ごろ、只見高野球部の長谷川清之監督(55)や鈴木宏睦部長(34)らが見守る中、校長室の電話が鳴った。伊藤勝宏校長は右手で何度も渾身(こんしん)のガッツポーズをし、「21世紀枠出場校の名に恥じぬよう、できる限りの準備をして大会に臨みます」と応じていた。 体育館で待機していた部員に伊藤校長が「甲子園出場が決まりました。本当におめでとう。ぜひ、会津の奥から甲子園に雄姿を見せてください」と伝えると、選手たちは感嘆の声を漏らし、主将の吉津(きつ)塁(2年)は感極まっていた。長谷川監督は「今までこの地で野球をやってきたことに誇りを持ち、また新しい伝統を作り上げてくれた君たちに大きな拍手を送ります」と選手たちに呼びかけた。 21世紀枠のため、選ばれない可能性もあり、喜びもひとしおだった。吉津は「自分たちの活躍で町を元気にできるよう、甲子園ではチームのモットーである全力疾走を披露したい」と強調した。 21世紀枠で落選した6校への気遣いも感じられた。投手の酒井悠来(同)は「選ばれなかった高校のためにも、自分たちがしっかり練習して甲子園で頑張りたい」と話し、一球入魂を誓った。 昨秋のチームの躍進には、山村教育留学制度を使って只見に入学してきた部員の活躍も欠かせない。会津若松市から入学してきた副主将の室井莉空(りく)(同)は昨秋、4番とリリーバー(救援)を務めた。町内で寮生活を送る室井は「親と寮の方に感謝の気持ちを伝えたい。自分の野球人生に関わってくれた方に恩返しの意味を込め、笑顔で全力プレーをしたい」と話した。 学法石川高で3年時に選手として甲子園に出場している長谷川監督は、只見高の監督に就任して約20年になる。出身地で指導に情熱を注いできた長谷川監督は「出場が決まるまで落ち着かなかった。甲子園に向けて、いつも通り練習していきたい」と話した。 ◇諦めない姿勢光る 昨秋の県大会8強入りは、春季県大会、夏の福島大会を通じて初の快挙だった。3回戦は2020年秋ベスト4の相馬東に延長十一回にサヨナラ勝ちし、4回戦も八回に逆転勝ちするなど粘り強さが際立った。敗れた準々決勝も三回に6点差をつけられながらその後は追加点を許さず、諦めない姿勢が光った。 投手陣は酒井悠来(はるく)(2年)が全4試合を先発。3試合で安定感のある室井莉空(りく)(同)が救援し相手の目先を変える作戦が奏功した。長身右腕・大竹優真(同)も控える。 打線は上位を打つ酒井怜斗(1年)、山内優心(2年)、鈴木詠大(えいと)(1年)の出塁率が高く、4番の室井は好機に強い。主将、吉津塁(2年)も3回戦で本塁打を放つ勝負強さがある。 選手はそれぞれ複数ポジションを守れるのも特徴。積雪でグラウンドが使えない冬場は、長谷川清之(せいし)監督と工夫しながら体育館や駐輪場で練習を重ね、力を付けている。 ◇毎日新聞号外を寄贈 学校などに2000部 只見と聖光学院のセンバツ出場決定を受け、毎日新聞は特別号外を発行した。新型コロナウイルス感染防止のため、まちなかでの配布は控え、学校などに計2000部を寄贈した。 只見では職員室などで教員や関係者が号外を手にし、創部以来初の快挙を祝福した。野球部保護者会長で吉津主将の父、吉津健さん(52)は号外紙面を目にして声を震わせた。「夢のようでまだ信じられない。子どもたちの夢でもあり、高校球児の親にとってもこの舞台は夢だった。おめでとうとだけ伝えたい」と喜んだ。 聖光学院でも、新型コロナウイルスの感染防止を優先して号外は配布せず、全校生徒に行き渡るよう学校に寄贈した。 ……………………………………………………………………………………………………… ◆只見 ◇町外からも生徒受け入れ 1948年創立の県立校。野球部は76年創部。全校生徒は86人と少なく、学校のある只見町は積雪の深さが3メートルを超えるシーズンもある日本有数の豪雪地として知られる。 校訓は「真摯(しんし)・明朗・健康」。教育方針として、グローバルな視点からローカルを創造し、人と人とをつなぐリーダー性を持つ生徒「グローカル・リーダー」の育成を掲げる。 町は町外からの生徒を受け入れる「山村教育留学制度」を2002年度から導入し、今年度までに全国から190人を受け入れてきた。野球部にも現在、この制度を活用した生徒が5人いる。 部活動はほかに卓球部、剣道部、バレーボール部、総合文化部がある。