井上弟の拓真が苦しんでつかんだ1年ぶり復帰勝利に何が見えたか
「いい試合で盛り上がるのは嬉しいが、うちとしてはちょっと違う」。父で専属トレーナーの井上真吾さんの本音。判定結果は「98-92」「98-93」「97-94」の3-0の大差だったが、井上拓も「5,6ラウンドにKOで終わる展開を考えていたのですが……緊張もあって最後までズルズルといってしまった。(父との)反省会が怖いです」と、笑顔を見せなかった。 スタートは素晴らしかった。手術した右を使えない間に磨いた左ジャブ、左フックから鋭いステップインのワンツー。突貫力があった。だが、2ラウンドに入ると、プレッシャーを緩め、左フックのカウンター、アッパー狙いに切り替える。「相手につきあわず距離を作りたかったので」。その自在性に目を見張ったが、3ラウンド、4ラウンドと、パンチに力みが見え、大降りが目立ち、上下にパンチを散らすこともできなかった。 5ラウンドからは、久高に左右のボディストレートを執拗に打たれて、密着戦に巻き込まれると、明らかにペースダウン。ロープに下がって腹を打たれることを嫌がった。 「くっついて腹を打つと嫌がっているのがわかった。弱点が見えた。カウンターを狙うアウトボクシングをしてもダメなら次の一手。それが僕のキャリアですから」 久高の老獪な戦略。このラウンド、ベテランボクサーは右のカウンターを浴びせている。 久高は、2008年に、この日会場に姿を見せていた坂田健史の持つWBA世界フライ級王座に挑戦して判定負け、翌年にはタイの敵地で、名王者、デンカオセーンを倒しながらも惜敗。Sフライに階級を上げてからも2010年にWBA世界Sフライ級王者のウーゴ・カサレスに善戦して、井上尚弥がのちにタイトルを奪うオマール・ナルバエスには、アルゼンチンに渡って挑戦して10回にTKO負けをしている。その歴戦のキャリアはダテではなかった。 「ボディは効いたわけではありません。狙っているのがわかっていたのでカウンターをあわせにいったんですが、タイミングがずれたままでした。このあたりが練習でできて試合でできていない部分でした」 井上拓も、前に出てくる久高に左フック、右のストレートをカウンターで合わせていくが、いかんせん、腰が浮いた手打ちで、下半身も肩も入っていないパンチだから、ダメージブローにはならない。