ブリヂストン元CEO荒川詔四氏が訴訟リスクを負ってまで「超強気な業績目標」を掲げた理由
■ 子会社CEOとのコミュニケーションに欠かせない「ある概念」 ──中期経営計画を立てる際、どのような点に注力していたのでしょうか。 荒川 特に重視したのは「オーナーシップ」の概念です。ブリヂストンでは、本社の中期経営計画で「あるべき姿」を描き出し、その後、それぞれの子会社のCEOが自社の状況を踏まえて中期経営計画を作成していました。最終的には、本社がそれらを集約して、整合性をチェックします。もしも方向性の違いや齟齬(そご)があれば、各社のトップとコミュニケーションを取る、というプロセスも欠かせませんでした。 それぞれの子会社が自社の中期経営計画を立てる際、「オーナーシップを欠かしてはならない」と、私は常々強調していました。経営トップにとってのオーナーシップとは「経営責任」を意味します。 日本企業の中には「それぞれの子会社に経営責任がある」と言いながら、子会社に対して過度に介入するケースが多々見受けられます。子会社の計画に対して、「こうすべきだ」と細かな指示を出してしまうのです。そうなると、子会社はオーナーシップなど持てたものではありません。 本社(親会社)は、子会社の経営者に対してリスペクトを持ってコミュニケーションを取ることが大切です。そうすることで、各社が自分たちのあるべき姿をしっかりと描くことができます。親会社としても、子会社にフィードバックをした際に納得を得やすくなるのです。 ──数ある子会社の経営者とコミュニケーションを重ねて、各社の中期経営計画と整合性を図るのは、相当な時間を要するのではないでしょうか。 荒川 確かに膨大な作業でしたが、それだけのコストと労力をかける価値があると考えていました。それだけのプロセスを経ると、各人の中に「オーナーシップは自分にあるんだ」という強い意識が育ちます。当初計画から変更が入った際にも、自信を持って自社の従業員に説明できます。 私は「ROA6%」という目標を掲げたとき、「各社のトップがどのように考えるか」「各社の現場でどのような動きが生まれるか」など、想像を巡らせて数値を決めました。自分自身も各社のトップも、誰もが納得できる目標だったからこそ、株主の前で「この目標を達成しますので、任せてください」と言える自信があったのです。
三上 佳大