『虎に翼』が描いたありとあらゆるものからの“解放” 寅子の「はて?」をいつまでも胸に
『虎に翼』はありとあらゆる「こうしなければならない」から登場人物を解放していった
そしてもう1つ、美雪が大切にしている母・美佐江の手帳に書かれていた「美雪、愛してあげられなくてごめんね」に端を発する「母親」を巡る問題。第127話で寅子は「親に囚われ、縛られ続ける必要はないの」と美雪に呼びかけることで、美雪から母・美佐江の亡霊を引き剥がす。 そして第128・129話では逆に「母としては未だに失敗ばかりな気がする」寅子が「(母親に)根本的に向いていない」と一人呟く姿を目撃した優未が、寅子に沁みついた「いい母親でいなければならない」という呪縛を取っ払うのである。寅子だけでなく、たくさんの素敵な大人たちから多くのことを学び、吸収していった優未のこれまでの日々が形を為したような彼女の現在の姿は、母である寅子自身を肯定する。つまり最終週は、彼女たちの「母親」からの解放の物語でもあった。 『虎に翼』はありとあらゆる「こうしなければならない」から登場人物を解放していった。そして「自分の選んだ道を進めばいい」と言い続けた。寅子と航一(岡田将生)は「家族のようなもの」になり、航一の息子・朋一(井上祐貴)は法律の世界から離れ、家具職人になることを選ぶ。優未もまた、固定概念に縛られず、好きなことを仕事にしている。道男(和田庵)が笹山(田中要次)に与えてもらった居場所である「笹寿司」と、梅子(平岩紙)が引き継いだ「竹もと」が、互いのできることを補い合う形で合体して「笹竹」になり、「カフェー燈台」は、涼子(桜井ユキ)の新潟の喫茶「ライトハウス」に繋がった。何より嬉しいのは、香淑/香子(ハ・ヨンス)と涼子が司法試験に再び挑み、晴れて合格したことだ。よねが時間をかけて弁護士になり、終盤の原爆裁判、尊属殺を巡る裁判の中心を担っていたのもそうだが、彼女たちは、「石を穿つ雨垂れの一滴」で終わらず、生きてさえいれば、何度だってなりたい自分になれるのだということを証明して見せた。 第1週において「それでも本気で地獄を見る覚悟はあるの?」というはる(石田ゆり子)の問いに寅子が迷いなく「ある」と答えたその先の道は「最高」だったと最終話で寅子が答えたように。自ら選んだ地獄なら、これからの私たちはどこまでも突き進むことができる。道に迷ったら心の中の寅子に聞けばいいのだから。
藤原奈緒