中東が混迷を深める理由とは? 黒木英充、鈴木恵美、高橋和夫、萱野稔人、春香クリスティーンが議論(1)
宗派対立の激化
萱野:はい。最初のテーマなんですけれども、今イスラム国がシリア、イラクの領土の中で勢力を今時点では拡大してると言えないかもしれませんけど、大きな勢力を今、まだ保っているということで、先日はリビアでも人質を大量に殺したという映像がアップされてるということで、中東がまた新しい混迷に陥っているんではないかなと思うんですけれども、今の中東の混迷の原因ってそもそもなんなんですか。ここからお伺いしたいんですけれども、まず黒木さん。ちょうど今日、今朝ですよね。中東から戻られてきたの。 黒木:はい。 萱野:どちらに行かれてたんですか。 黒木:はい。レバノンのベイルートに行ってました。 萱野:レバノンですか。レバノンと言えば、イスラエルの北側にあって。 黒木:そうですね。 萱野:ヒズボラを抱えているというとこですよね。 黒木:そうです。 萱野:いかがでした。 黒木:1週間ぐらいの滞在だったんですが、地中海に面してまして、もうこの季節になると春爛漫でして、気候はいいし、という感じなんですが。 萱野:本来なら。 黒木:しかし、実際良かったんですが、社会の亀裂と言いましょうか、すぐ隣シリアで、山を1つ、2つ超えるともう戦闘があるわけなんですね。車ですと順調にいけば小1時間ぐらいで行ってしまうような距離なわけです。そういう地域で、しかもレバノンの国軍の兵士自体もまだ人質にそれこそ取られている。で、その家族が私の、うちの大学の研究所がベイルートに現地拠点を持っているんですが、そのすぐ近くに国連関係の建物がありまして、そこで国連に訴えるっていうんで、その家族たちがテントを張って座り込みをしてるんですね。 萱野:人質に取られた人たちの家族。 黒木:兵士の家族たちがですね。それで、それはヌスラ戦線っていうアルカイダ系の民兵組織に、シリアの反政府組織に拘束されてるわけですが、それで、そういう家族たちがいるっていうこともあって、周りが鉄条網で封鎖されたりしまして、うちの事務所の周りもですね。それでそういう、町のそれ、中心部なんですけれどもそういう状況と、それからレバノンは今9カ月にわたってまだ大統領が決められないんですね。空位なわけです。で、そういう要するにこれは中でいろんな駆け引きが続いてるんですけれども、その中でだんだんと社会の基盤が溶けていくんじゃないかっていうような恐れですね。そういうものが人々の間にたまって、充満しているっていう感じがありましたね。 萱野:なるほど。今、例えばイスラム国が支配を広げてる地域っていうのはイラク、それからシリア、あとリビアもこの前ありましたけれども、どこも例えばイラクであれば、政府がなかなか統治を貫徹できない、非常に不安定になっている、で、シリアは内戦、リビアはそこも事実上の内戦になってる。政情不安定なところでイスラム国が勢力を伸ばしているとこがあると思うんですけれども、レバノンもそういった雰囲気というか、政情不安定がまたいろんな反政府組織だとか、テロ組織を生むような雰囲気っていうのがあるんですか。 黒木:地方、地方によって小さい国なんですけれども、実際に一部、旗を、黒い旗を掲げて写真を撮ったりするような、そういうところもあるわけなんですね。ですので、いろいろ火種はあちこちにあるという感じですね。でも、レバノンの人たちは総じてそういったものには非常に強い拒否反応を持ってまして、そういう点では今すぐどうなるっていう、そういう心配はないと思うんですが、しかし、やっぱり人々に不安はあるっていうことですね。 萱野:なるほど。もうちょっと聞きたいんですけれども、その政情不安になっている中東全体。比較的安定しているところもあれば、不安定なところもあると思いますけれども、要因って一言で言えばなんだと思います? 黒木:これは話すと長くなりますが、いろんな形で、今で言うとスンニ派対シーア派っていうこの宗派対立ですね。これが中東全域を覆い尽くしつつあるんですね。その一環としてさまざまな現象が起こっているわけです。 萱野:宗派対立が一番やっぱり根深いっていうことですね。 黒木:そうですね。最初は宗派対立じゃなかったかもしれない。例えばシリアの内戦はそうなんですけれども、だんだんそっちに流れが傾いていって、社会が2つに分極化していくっていう、そういう現象ですね。