マイナ保険証「トラブルによる死亡例」も 医師が語る“現場で起きている弊害”と“国民が知らされていないリスク”
「なりすましの危険」は防げない
マイナ保険証のメリットとして、「なりすましを防止できる」ということが挙げられることもある。しかし橋本医師は、以下のように反論する。 橋本医師:「健康保険証でなりすましが続出してシステムとして問題だということが明らかになったのではない。マイナ保険証に一本化するためのこじつけとして言い出されている。 もしなりすましがあったとしても、全国で数十件あるかどうかというレベルではないか。 また、外国人が保険証を使い回ししているというデマがまことしやかに拡散されている。これは差別の文脈の中でいわれることもあるので、非常に問題だと考えている」 なお、このことについては、SNSでヘイトスピーチの意図があるとみられる恣意的な誤情報が拡散されるなど、情報が錯綜している。 そこで、編集部で信頼できるデータ等の情報を確認したところ、2023年5月19日の参議院の地方創生・デジタル特別委員会で、厚生労働省から、なりすまし受診、健康保険証の偽造などの不正利用の件数は2017年~2022年の5年間で50件だったことが表明されていた。 つまり、平均すると、年10件ということになる。 2023年度(令和5年度)国民健康保険実態調査の結果によると、2023年9月末時点の国民健康保険の加入者は約2638万人だった。被用者保険でも同程度の割合で不正利用が行われたとすると、橋本医師の推測する数値とほぼ一致する。 出口弁護士:「マイナ保険証についても顔認証の他に4ケタの暗証番号による認証もできる。受付のところで必ずしも顔写真の確認をするわけではない。 持ち主が『他人に使わせてもいいや』と考え、他人にマイナ保険証を貸してパスワードを教えてしまえば、本人認証はできてしまう。マイナ保険証でもなりすましの危険は防げないのではないか」 国は『医療DX』を推進しているが、医療の現場では、すでに今回のシンポジウムで指摘されたような問題が発生している。 本記事ですべてを取り上げることはできないが、シンポジウムでは他にも参加者からさまざまな実態や懸念が示された。現役の歯科医師や、親を介護している人からの切実な訴えもあった。 現行の健康保険証の制度は特に支障もなく続いてきたものであり、それゆえ、シンポジウムで指摘された問題の大半は、現行の保険証も残すことで解消される。 にもかかわらず、12月2日に現行の健康保険証の新規発行が停止され、マイナ保険証に一本化されることは果たして正当なのか。政府には慎重な対応が求められよう。
弁護士JP編集部