マイナ保険証「トラブルによる死亡例」も 医師が語る“現場で起きている弊害”と“国民が知らされていないリスク”
マイナ保険証の利用率が「1割程度」にとどまる理由
国は『マイナ保険証利用促進キャンペーン』を行い、医療機関に補助金を支給し、薬局の薬剤師等全国1万人を『デジタル推進委員』に任命するなど、マイナ保険証の普及の取り組みを行っている。 しかし前述のとおり、7月時点で利用率は11.13%にとどまっている。。 その理由について、橋本医師は以下のように分析する。 橋本医師:「本当に便利なら自然に普及するはずなので、医療現場で求められていないということ。 理由ははっきりしている。現行の健康保険証の方がマイナ保険証よりはるかに便利で使いやすいからだ。これに尽きる。 マイナ保険証はカードの取得の手間がありトラブルも多いほか、カードの紛失や犯罪利用されるといった不安要素も多い。資格確認できなければいったん10割負担にせざるをえない。特に高齢者には不向きな制度だ。 また、転職・転居等により健康保険の保険者が変わった場合、資格情報が切り替わって新しい情報が『オンライン資格確認等システム』に反映されるまでにはタイムラグがある。 切り替えの手続きは人の作業なので、タイムラグはゼロにできない。手続きが終了しておらず、マイナ保険証で受診できないトラブルは絶対に起きる。 このタイムラグのことは、マイナンバーカードの保険証利用について国が作成した案内のなかに、非常に小さな字で書かれている。都合が悪いからだ。 マイナンバーカードでは、いつ新しい情報に切り替わったかは確認しようがない。 これまでのように、手元に新しい健康保険証があるかどうかで判断するほうが、ずっとわかりやすい」
現場で起きている「弱者切り捨て」
橋本医師はさらに、現行の健康保険証の廃止とマイナ保険証への一本化は「弱者切り捨て」につながるとの懸念を示した。 橋本医師:「基本的に、オンライン資格確認を行うカードリーダーは人が立って利用する高さにあるので、重症患者、高齢者、車椅子利用者などは利用しにくい。 医療機関の職員がマイナンバーカードの券面と本人を見比べて確認を行う『目視確認モード』というものもあるが、操作が必要なので受付の混雑を引き起こす一因となっている。 また、高齢者施設での不安がある。ほとんどの高齢者施設では施設側が入居者の健康保険証を預かっている。入居者は複数の疾患を抱えていることが多く、受診の必要があるときにスムーズに受診できるようにするためだ。 しかし、マイナ保険証に一本化された場合、施設がマイナンバーカードと暗証番号を預かるわけにはいかない」 そして、地方での医療機関の廃業が増えていることとの関連も指摘された。 橋本医師:「国は、情報集積のため、なんでもマイナンバーカードに一本化したいと考えているのではないか。 しかし、いろんなものを一本化すると、マイナンバーカードがなければ不便な社会になる。マイナンバーカードを持たざるを得ない環境に追い込まれていく。本当にそれでいいのか。 地方の医療機関の廃業が増えている理由の一つに、オンライン資格確認の義務化など医療DXの“ごり押し”がある。 これから人口が減少していくと受診者も減り、医師は大都市部でしか開業できないことになる。地方の医療が守られるようなしくみが必要ではないか。マイナ保険証への一本化は、ついてこられない人を切り捨てる、弱者切り捨ての制度だ」