マイナ保険証「トラブルによる死亡例」も 医師が語る“現場で起きている弊害”と“国民が知らされていないリスク”
マイナ保険証への一本化が「医療の質の低下」を招く?
全国保険医団体連合会副会長の橋本政宏医師は、現場で診療を行う医師の立場から、マイナ保険証による資格確認のプロセスが、かえって医療の質を向上させる「妨げ」になっていることを指摘した。 橋本医師:「医療の質を向上させるのに最も重要なのは『診療』、つまり病気に関する医師の『診断』と『治療』を充実させることだ。 そして、そのためには、『保険証による資格確認』は速やかに、滞りなく行う必要がある。 しかし、マイナ保険証での認証を行う場合、現状では、初診、再診いずれも支障が生じている」 どのような支障が生じているのか。橋本医師は、資格確認を現行の健康保険証で行う場合と比較して、具体的な手順に沿って説明した。 まず、現行の健康保険証について。 橋本医師:「現行の健康保険証を使う場合は、受付に提示するだけなので、資格確認をスムーズに行うことができる。 初診のときは、資格確認と同時並行で、本人に質問用紙へ症状について記入してもらうとともに、緊急度や重症度に応じて治療優先度を決める『トリアージ』も行う必要がある。トリアージにおいては、受付の事務職員や看護職員が目を光らせている。 トリアージは非常に重要で、ふつうの外来でもたえずやっている。救急の患者でなくても、緊急性と重大性が認められる場合があり、受付事務職員・看護職員の専門性が要求される。 たとえば、強い自覚症状がなく歩いてきた患者が、実は急性心筋梗塞等の重大な病気だったということがよくある。 現行の健康保険証なら、資格確認に時間を取られることなく、並行して質問用紙への記入やトリアージ等をスムーズに行い、診療に移行することができる」
マイナ保険証で現に起きている「深刻なトラブル」
これに対し、マイナ保険証での認証は、資格確認に時間を奪われるなどの支障があり、最悪の場合は人命にかかわるという。 橋本医師:「マイナ保険証を使って受診・受付をする場合、初診も再診も関係なく、毎回本人確認が必要になる。 マイナ保険証での資格確認は、顔認証付きカードリーダーにマイナンバーカードを置き、顔認証または4ケタの暗証番号で本人確認を行い、医療情報の提供の同意・不同意を選択しなければならない。 本来であれば、トラブルがないことが求められる。 しかし、利用率が11.13%(7月時点、厚生労働省調べ。【図表2】参照)と低い今でも、『資格情報なし』『名前や住所で●が表記される(※)』『カードリーダーがエラーを起こす』といったトラブルが頻発している。特に名前や住所の『●』がやっかいだ。そのたびに事務職員が対応しなければならない。カードリーダーがエラーを起こせば受付事務がストップしてしまう。 このトラブルのせいで亡くなった人もいる。カードリーダーでトラブルが起きたためにその日の受付をあきらめて帰宅し、急性心筋梗塞のため死亡した事例が実際に起きている。 また、私の勤務する病院では、新型コロナウイルス感染症の疑いがある人は院内に入れることができないので、駐車場で診察や検査を行っている。このように、カードリーダーが使えずマイナ保険証での資格確認ができない場面が出てくる。 資格確認をすぐ済ませてスムーズに診療に入れるほうが、診療の質は上がる。マイナ保険証で余計なトラブルが起きれば、診療の質は下がる。 資格確認の目的は、自己負担割合の確認と、加入している健康保険を明らかにするためであり、毎回行う必要はないはずだ」 ※住民登録のデータベースと医療保険のデータベースとで異字体を識別するための文字コードが異なるために起きる現象