マイナ保険証「トラブルによる死亡例」も 医師が語る“現場で起きている弊害”と“国民が知らされていないリスク”
本人の了承なく「医療情報」が取得されるリスクも
マイナ保険証での認証においては、医療情報の提供の同意を求められる。このしくみについての危険性も指摘された。 橋本医師:「医療情報の提供の同意に際しては、なぜそれが重要なのかという理由をきちんと説明しなければならない。 たとえば、薬剤の処方に際して現在服用している薬の情報を聞くのは、アナフィラキシーショックや、出そうとする薬との相互作用などがあってはいけないからだ。 医療の質を上げるためという一般的かつあいまいな説明で丸ごと情報を得るのは、同意を得る方法として好ましくない」 橋本医師は、実際上の不都合についても強調した。 橋本医師:「診療の現場では、必要な情報は医師が判断して患者にピンポイントで質問する。場合によっては機微にわたる情報も聞かなければならない。たとえば、若い女性が腹痛を訴えた場合に妊娠しているかどうかを聞くようなことだ。 提供する患者の側も、質問する医師の側も、理由が分かったうえで、信頼関係が構築されて、必要な範囲で医療情報をやりとりするのが本来の姿だ。医療情報をなんとなく全部提供してよいものではない」 さらに、薬剤の情報については、マイナ保険証が役に立たないことも指摘された。 橋本医師:「マイナ保険証で示される薬剤の情報は、レセプト(診療報酬明細書)から抽出したもの。 レセプトは医療機関が月ごとに提出するものなので、過去1か月間くらいの内容は含まれておらず、最新の情報は得られない。『おくすり手帳』のほうが確実だ」
セキュリティリスクが深刻化するおそれも
マイナ保険証の導入により、カルテのオンライン化、電子カルテ化が進み、将来的にカルテのフォーマットが統一されれば医療機関側でカルテ情報を確認できるようになるメリットがあるといわれる。 しかし他方で、マイナンバーカードに情報が一元化されることにより、個人情報漏えい等のセキュリティリスクが増大するという問題も指摘されている。 出口弁護士:「マイナポータルで見られる情報は、一般的には見られたくない、知られたくない情報が多数ではないか。 しかし、4ケタの暗証番号が他人に知られると、他人がそれらの情報を簡単に見ることができてしまう」 他にも参加者から、医療機関が身代金攻撃型のサイバー攻撃(ランサムウェア)を受けるリスクが増大することへの懸念が示された。 橋本医師:「ランサムウェアの被害はこれまでも医療機関で発生している。実際に身代金を払って解決しているところもあり、非常に問題だ。全国一律の電子カルテ共有システムを構築すれば、そのようなリスクは当然高まる。 しかし、国は情報漏えいの責任を医療機関に押し付けている。情報管理は医療機関の自己責任だとしている。 全国統一の電子カルテのしくみができても、医療の質が向上することはない。 現状でも、実は、閉ざされたなかで地域を限定してネットワークを構築し、医療情報をうまく活用しているしくみが存在する。それを国が応援するほうが理にかなっている」