焼き肉チェーン大戦争2024「食べ放題はまだ強いのか」【徹底深掘り】
「低単価で高回転率」から「顧客満足」へ
約5年間続いた「ソロ焼き肉ブーム」がいま、終焉を迎えようとしている。 火付け役となったのは’18年創業の『焼肉ライク』だ。一人1台の無煙ロースターが設置された座席、一人分の量で用意された肉、提供時間の早さによって生み出された通常の焼き肉店の約4.5倍を誇る抜群の回転率。店を構成するすべての要素が新しかった『焼肉ライク』は、コロナ禍のお一人様需要を見事に捉え、メガ焼き肉チェーンへと成長していった。 【よだれが…】すごい…!大阪焼肉ホルモン『ふたご』の『名物!!黒毛和牛のはみ出るカルビ』 ところが――。昨年9月に赤坂見附店、同10月に吉祥寺南口店、今年7月に津田沼店、同8月に松戸南花島店が閉店し、最盛期には100を超えていた店舗数も、現在では約80に減少。『焼肉ライク』に、何が起こっているのか。 「ブームの熱が冷め、顧客が『ファストフードとしては安くなく、焼き肉店としてクオリティが高いわけでもない』ということに気づいてしまった。ライクは効率を求め、工場でカットされた肉を店舗で盛り付ける方式を採用していますが、素材勝負の焼き肉店との相性がいいとは言えない。 また、創業当初よりもメニューが増えたことによってオペレーションが複雑化し、提供スピードと回転率が落ちてしまった。たまに、乾いているのではと思うような肉が出てくることもあります。こうした要因が、不調の背景にあるのではないでしょうか」(飲食業プロデューサーの須田光彦氏) 低単価で高回転率、そしてスタイリッシュな内装が人気を博していた『焼肉ライク』が苦戦を強(し)いられているのに対し、比較的高単価で、なおかつ肉はほとんど国産、そして″店員が焼いてくれる″という高級店さながらのコンセプトで急激に勢力を伸ばしている焼き肉店がある。’10年創業で、現在100店舗以上を運営する『大阪焼肉・ホルモンふたご』だ。 店舗によって多少の差はあれど、4人掛けのテーブルに卓上コンロが設置され、肉は銀皿で提供される。椅子は背もたれのない丸椅子がほとんど。さながら昭和の大衆焼き肉屋のような内装は『焼肉ライク』とは対照的な印象だ。 『ふたご』の売りは、なんと言っても肉質の高さ。都内にある店舗を訪れた記者に対し、店員は『食品衛生法上、生では出せませんが、うちの上タン塩(1485円)は刺身でも食べられる鮮度で、冷凍していないので臭みもありません!』と自信たっぷりに語った。 『ふたご』では、メニューにトングのマークが記載されている商品は店員が焼いてくれる。上タンもそのうちの一つ。絶妙な焼き加減で取り皿に載せられた厚みのあるタンを口に運ぶと、なるほど臭みは一切なく、サクっとした食感と脂の旨味をダイレクトに感じることができた。 記者とともに店員が焼いてくれた肉に舌鼓を打ちながら、フードジャーナリストの長浜淳之介氏が話す。 「トングのマークがついていなくても、忙しい時間でなければ店員さんが焼いてくれるなど接客が非常に丁寧で、ジューシーな国産牛をリーズナブルに楽しめる。 チェーン店では、マニュアルを頼りに短期間で店を増やしすぎ、人材と食材のクオリティが下がって失敗するということがよく起きます。しかし、『ふたご』は丁寧な接客、そして火の通りやタレの絡みを計算した切り付けができる人材を育成してから出店する。そのため、客単価は約6000円と安くないにもかかわらず、顧客満足度が高くリピーターの獲得に成功しているのです」 勢いを増す『ふたご』に対し、王者『牛角』は苦戦を強いられている。最盛期には600以上の店舗数を誇っていたが、現在では約520店舗と激減しているのだ。 ◆食べ放題で別れた明暗 「そもそも『牛角』は、焼き肉居酒屋として成功しました。安い輸入牛をつまみにお酒をたくさん飲むスタイルです。つまり、駅前の居酒屋業態が成功するような立地に店を構えることが重要だったのです。ところが、FC展開によって店舗数が伸びるにつれ、多くの加盟店主が『あの牛角の成功をウチの近所で再現しよう』と考え、無理やりロードサイドに出店するようになった。客は車で来店するので、利益の要であるお酒が売れません。 さらに、ここ数年は円安や物価高の影響で輸入牛の仕入れ値が上がり、国産牛との価格差が小さくなってきました。消費者からすれば、値段に大きな差がなければ金額を上乗せしてでも、付加価値の高い国産牛を選びたくなる。こうして『ふたご』など中価格帯店に客が流れていることも大きい」(前出・須田氏) 野村総研の『生活者1万人アンケート調査』によれば、『自分が気に入った付加価値には対価を払う』という人の割合が、’00年の13%から’21年には24%まで伸びている。長らく安さを売りにしてきた『牛角』にとって、こうした消費者心理の変化は逆風となっているのかもしれない。 窮地に立たされている王者に対し、堅調に勢いを伸ばして王座奪取を現実的なものとしているのが『焼肉きんぐ』(334店舗)だ。 「コスパを考えても、クオリティを考えても、『きんぐ』は焼き肉チェーンの中でナンバーワンでしょう。店舗数は依然として『牛角』がトップですが、近い将来に追い抜くでしょうね。『牛角』が居酒屋的営業手法で成功したチェーンであるならば、『きんぐ』はロードサイドの食べ放題という業態で成功したチェーン。食べ放題は、言い換えれば『定額プラン』ですから、家族連れでもグループで行っても会計の際の心理的負担が少なく済む。物価高なのに所得が上がらない今の時代にはありがたい存在です。 メニューも豊富で、スタンダードプランの『きんぐコース』(3608円)では名物の『きんぐカルビ』や『壺漬けドラゴンハラミ』といった塊肉に加えてサイドメニューも充実。『きんぐ』の成功を見て食べ放題にシフトした『牛角』の『牛角コース』は3938円ですから、コスパもメニューの魅力も『きんぐ』が上回っているのです」(B級グルメ探究家の柳生九兵衛氏) 『きんぐ』は、『ふたご』の業績拡大の要因である接客のクオリティという面でも、王者を上回る。月刊『近代食堂』編集長の雨宮響氏が話す。 「ロードサイド食べ放題店は席数も注文数も多いため、店員の手が回らなくなりがちですが、ロボットがホール業務を手助けし、″焼肉ポリス″と呼ばれる店員が各商品の最適な焼き方を教えてくれる。提供して終わりではなく、美味しく食べるためのサポートをしてくれるこのサービスは、『牛角』にはありません」 依然として一大コンテンツである食べ放題で他を圧倒するクオリティを誇る『焼肉きんぐ』が、1兆円市場の焼き肉業界のキングとなる日は近い。 『FRIDAY』2024年11月15日号より
FRIDAYデジタル