次期トランプ政権の関税政策をあまり気にするな
セントルイス連銀のグラフ を御覧じろ。トランプ第1期政権(2017~2020)よりもバイデン政権(2021~2024)の方が税収は多く、つまり国民負担も大きくなっている。関税が原因でインフレが起きるというなら、それはもうすでに始まっていると考えたほうがいい。 さらに言えば、関税収入はそれほど巨額ではない。確かに2017年以前に比べれば増加しているが、2023年の関税収入は3266億ドル。連邦政府歳入の4.6兆ドル(2023年度予算教書)やGDPの27.7兆ドル(2023年)に比べれば決して大きくはない。仮に第2期トランプ政権がさらなる追加関税に踏み切ったとしても、マクロ経済への影響は限定的であろう。
他方では、関税によるミクロ経済への影響は大ありだ。2018年、トランプ政権が通商拡大法232条を発動して鉄鋼・アルミ関税10%を導入して以来、世界の鉄鋼貿易は3.4億トンから2.7億トン(2023年)へと約2割減となっている。つまり関税によって、鉄鋼という商品の「地産地消化」が進んだわけである。 それでは狙いどおりアメリカの鉄鋼業が復活したのかと言えば、お生憎さまだが答えはノーだ。USスチール買収問題でも明らかなとおり、保護主義は産業を助けるよりもダメにしてしまうのだ。第1期トランプ政権は、鉄鋼輸入は「国家安全保障上の脅威」と見なし、国内メーカーの稼働率80%以上を確保するために関税をかけた。ところが製鋼業の稼働率は、2022年以降は80%ラインを割り込んでいる。
かくなる上は、USスチールが日本製鉄の買収計画を受け入れて、本格的な再建に乗り出すのが最善手のように見える。 とはいえバイデン大統領、トランプ次期大統領共に買収には否定的である。現在はCFIUS(対米外国投資委員会)が、日本製鉄の買収提案への審査を行っており、その締め切りはクリスマスイブ直前の12月23日だ。たぶんいいニュースにはならないだろうけどね。 ■「選挙モード」から「統治モード」に変身するトランプ氏