「昔のほうがよかった」とは全く思わない――東村アキコが考える「恋愛」「お金」「漫画」の今
「たった5年で、女の子たちのライフスタイルや嗜好が全然違う」。『海月姫』『東京タラレバ娘』『偽装不倫』など、多くの作品が映像化されている漫画家・東村アキコ(45)。世相を捉え、今を生きる女性たちを活写してきた。日韓で同時に連載し、縦読み漫画にいち早くトライするなど、ビジネス面も開拓している。若い世代の感覚、世の中の変化をどう見ているのか。膨大な仕事を平日8時間労働でこなす、無理しない働き方の秘訣は。(文中敬称略/取材・文:塚原沙耶/撮影:猪原悠/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
女の子たちの経済観念、恋愛観が変わった
「人生で、胸キュンなんかしたことないですよ。アイドル以外で。だから、胸キュン漫画は苦手なんです」 さまざまな作品で恋愛を描き、中でも『東京タラレバ娘』では、結婚に悩む30代女性の姿が話題を呼んだ。自身もふだん、友人、ファン、時には知らない人から恋愛相談を受ける。しかし意外にも、「恋愛漫画」は得意ではないと語る。 「少女漫画でデビューして、ギャグやミステリー要素など“一ネタ”ある恋愛はずっと描いてきたんですけど、いわゆる王道、直球の恋愛漫画は描いてないんです。少女漫画には、普通の女の子がスペシャルな男になぜか好かれるという基本構造がありますよね。あれはある種ストロングスタイルで。映画でいえば『タイタニック』、漫才なら中川家とかナイツ。読んでる女の子たちの心をイケメンキャラがグイッと持っていく感じが、私には描けないと直感的に感じていました。ついつい、女の子たちがワタワタしてる方向に行ってしまう」 「若い時は、かっこいい男の子も描けなかった。講談社漫画賞の選考委員をしているんですけど、今の人たちは絵のレベルがすごく上がってて。『私が高校生のころ読んでた漫画に、こんなかっこいい男の子いなかった!』って思いますよ。もう、前髪の描き方からして違います。隙間から目がキラキラしてる」
そんな東村に、40歳を過ぎてから変化が訪れた。胸キュンが少しずつ分かるようになり、かっこいい男の子も描けるかも、と思い始めた。現在執筆中の『私のことを憶えていますか』は、テーマが「初恋」。直球の恋愛漫画だ。 「K-POPにはまって、コンサートにも行くようになって、やっと分かってきて。アイドルの子がフッと目線をくれたりする。あの、永遠のように感じられる瞬間。これを求めてるんだなと。K-POPの男の子を見ていたら、『あ、目とか鼻とか、こうなってるんだ』というのも分かってきた。女の子たちをときめかせる、彼らのようなかっこいい男の子が描けるかもっていう気持ちになってきたんです」 初恋という普遍的なテーマを選んだ背景には、世相の変化もある。 「『タラレバ』のシーズン1と2で、5年空いているんです。たった5年で、30歳ぐらいの女の子たちのノリが全然違うんですよね。こんなにライフスタイルや嗜好が変わるんだな、と衝撃を受けて。私はこれまで、その時代の『今感』を大事にしていたんだけど、もっと普遍的な物語も描いてみたいと思うようになりました」