演劇界の重鎮の舞台に6度目の出演 「実直に、舞台で、人間を生きる」 仲野太賀に“ハマり役”が多いワケ
言わずと知れた演技派俳優・仲野太賀さん。映画やドラマに引っ張りだこだが、1~2年に1回のペースで舞台にも出演。それも、演劇界で厳しいことで有名な岩松了さんの作品にこれまで5回も出演してきている。10月には6作目の岩松作品『峠の我が家』で初めて主演することになった。恩人と呼ぶ岩松作品の魅力について語ってもらった。 【画像】舞台稽古について語る仲野太賀さん
「自分は間違っていなかったのかな」とホッとした
――仲野さんは、13歳で俳優デビューされて、映像に魅力を感じていらっしゃったのが、岩松さんに出会われてから、舞台にも積極的に出演されるようになったそうですね。 僕がまだ何もできなかった10代の頃、岩松さんのワークショップに参加させていただき、オーディションで拾っていただいたのが『国民傘-避けえぬ戦争をめぐる3つの物語-』(2011年)でした。以来、自分のなかの視野が広がりました。 ――今回、6度目のオファーを受けて、どう思われました? 嬉しかったです。岩松さんにもプロデューサーのM&Oplaysの大矢亜由美さんにも、『国民傘』から、たびたびお世話になっていますが、その状況に甘えていては絶対にいけないと思っています。ですから、新しい作品に呼んでいただくたびに、「一生懸命頑張ってきてよかった」「自分は間違っていなかったのかな」と心からホッとするところがあります。30代になり、成長した姿をお見せしたいと思いますし、主演をやらせていただくというのも感慨深いです。今回は二階堂ふみちゃんとご一緒できるというのもなんというか胸がいっぱいになりましたね。
「僕自身からは生まれない言葉」を浴びることの喜び
――二階堂さんは岩松作品は『不道徳教室』以来、11年ぶりだそうです。 僕がふみちゃんと舞台でご一緒するのは今回と同じM&Oplaysプロデュースの『八犬伝』以来、映像でもかなりお久しぶりです。もちろん、さまざまな作品で活躍されているのは観ていて、昔から信頼している仲間の一人です。僕たちが尊敬する岩松さんの舞台で共演できるというのは、本当に幸せ以外の何物でもないですね。 ――前作の『いのち知らず』のときには、稽古で、「岩松語録」をノートにつけていたそうですが、岩松さんの演出は他の演出家の方と大きく違いますか? 大きく違うということもないのですが、同じということもなくて。岩松さんのおっしゃる言葉の一つ一つにハッとさせられることが多くあります。岩松さんの戯曲はセリフも美しいですし、生きることや死ぬこと、人と人の関係など、深い物差しで捉えていらっしゃるんだなというのを、演出を受けるたびに感じます。僕自身からは生まれてこないような言葉で、その役のあるべき到達点に導いてくださいます。 ――『いのち知らず』では、勝地涼さんと演じられた男同士の絶妙な距離感、友情関係に胸打たれました。岩松さんの舞台は、交わされる言葉はたわいもないのに、本心が言葉と裏腹だったり、違う次元の物語が浮かび上がったり。観る人によって、感じとる風景の深度が異なる気がします。お稽古では真意を確認しながら作っていくのでしょうか。 我々は書かれた台本通りに演じて、それぞれの解釈を稽古場に持ち寄り体現していく感じです。演出も、「ここはこういう意味だからこうしてくれ」という具体的なものではなく、抽象度は高いけれど核心をつくようなことを言われることが多いです。 観客として岩松さんの作品を観るときによく感じますが、言葉を尽くしても伝えきれない何かが劇場に漂う感じがありますよね? その空気に心を奪われてしまう。それが何かということを言葉で限定してしまうのは憚られるようなものが。