演劇界の重鎮の舞台に6度目の出演 「実直に、舞台で、人間を生きる」 仲野太賀に“ハマり役”が多いワケ
「僕たちは普段、わかったふりをしてしまう」
――まさに劇場でしか感じ取れない、体験できないものですね。 はい。あえて言葉にするなら「人間のやりとりを見た」というような。 岩松さん自身も、言葉で説明できることや理解できたと思うことをよく疑問視されます。「わかる」ということは、それはもう自分の中にあるもの。でも、自分の範疇を超えた、わからないものの存在の方がずっと大きいし、そこにこそ真実味があるのではないか、と。 僕たちは普段、わかったふりをするし、わかったようなことを言うし、わかった気持ちになってしまうけれど、そうではない何かを岩松さんは描こうとしているのかなと思います。そういうものが今回も出てくる気がしています。 ――なるほど。 こんなふうに言うと難しいもののように感じられるかもしれないですけど、僕らも難しい芝居をしているわけではなくて、実直にシンプルにそれぞれの人間を生きようとして、人間たちのやり取りを見せているんですよね。 ――去年出演された宮藤官九郎さんの舞台『もうがまんできない』は、爆笑の連続のような舞台でした。岩松作品は、クスクス笑うことはあっても、客席の反応は全く違うと思うのですが、どう感じていらっしゃいますか? 宮藤さんの舞台は会場がドッと沸いて、演劇の素敵なあり方の一つだなと思います。岩松さんの舞台は、ピンと張り詰めた空気感があって、お客さんがものすごく集中して観てくださっているのが舞台上からもよくわかるんです。 岩松さんは以前「表に見えているものが全てではなくて、水面下でドラマは起きている」とおっしゃっていました。舞台上で見せている人物の言動と、内側に抱えているものは必ずイコールではなくて、お客さんは水面下で起きている物語を逃さないようにじっと観ている。 そういう岩松さんの素敵な世界、物語をぜひ楽しんでいただけたらと思いますね。 仲野太賀(なかの・たいが) 1993年生まれ、東京都出身。2006年俳優デビュー。21年の映画『すばらしき世界』で日本アカデミー賞優秀助演男優賞、ブルーリボン賞助演男優賞、22年にエランドール賞新人賞を受賞。最近の主な出演作に映画『笑いのカイブツ』『熱のあとに』『四月になれば彼女は』(全て24年)、ドラマ『初恋の悪魔』(日本テレビ 22年)、『いちばんすきな花』(フジテレビ 23年)、『虎に翼』(NHK 24年)など。『新宿野戦病院』(フジテレビ)に出演中。映画『十一人の賊軍』が11月1日、『本心』が11月8日に公開。
黒瀬朋子