日本男子ツアー「ガラパゴス化」脱却の道はあるのか/小林至博士のゴルフ余聞
ゴルフに限ったことではないが、スポーツ界はグローバル化が進む中で、一極集中による中心化と周辺化が加速している。PGAツアー(米国男子ツアー)では毎週10億円を上回る賞金が用意され、年間賞金総額は600億円を超える。 【画像】世界1位がクリスマスに右手を負傷 一方、日本の男子ツアーは長期的な低迷に苦しみ、2024年の試合数は24、年間賞金総額は33億1458万円と米国の“2軍ツアー”であるコーンフェリーツアーにも及ばない。その結果、海外トップ選手の流入は限られ、国内選手の海外流出を防ぐ魅力もないため、存在感はますます希薄になっている。 ZOZO創業者の前澤友作さんが手がける新規大会「前澤杯」で提案された、プロアマ戦の参加権をオークション販売し、その収益を賞金に加算するという斬新な取り組みは注目に値するが、グローバル化に伴う周辺化を食い止めるには不十分だろう。 では、日本男子ツアーはどのような手を打つべきか。一つのヒントとして「ピラミッド構造」を挙げられる。プロテニスはグランドスラムを頂点に、ATPマスターズ1000、ATP500、ATP250、さらには下部ツアー(チャレンジャー、フューチャーズ)へと明確に階層化されたトーナメント体系が存在する。 これにより、下位ランクのプレーヤーも下部カテゴリーでポイントを積み重ね、成果を出せば上位トーナメントへの道が開ける。また、大会のステータスは賞金額や出場選手のランキング水準などで明確化され、選手やファンにとっても分かりやすい。 この「テニス型ピラミッド」をゴルフに導入できないだろうか。現在、ゴルフ界はLIVゴルフの登場により混沌としているものの、PGAツアーを頂点としたピラミッド構造がディファクトスタンダード(事実上の標準)となっている。 例えば、DPワールドツアー(欧州ツアー)はPGAツアーの資本参加を受け入れ、年間ランキング上位10選手にPGAツアーのシード権を与えることで魅力を維持している。DPワールドツアーの下部にはチャレンジツアーがあり、米国ではコーンフェリーツアーの下にカナダツアーや南米のツアーが階層化されている。 この構造に日本ツアーが組み込まれる可能性はないだろうか。日本単独で困難であれば、アジアンツアーと連携する手も考えられる。アジアンツアーはLIVゴルフを運営するサウジアラビアの政府系投資ファンド(PIF)の出資により、レベルや賞金額で日本を上回っている。 ここでの年間成績上位者に、PGAツアーやDPワールドツアーへのシード権やスポット参戦権を与える仕組みをつくれば、国内ツアーは「世界への入り口」や「再スタートの場」としての意味を持つようになる。一方、上位ツアーで結果を出せなかった選手が再挑戦できる場を提供することで、上下双方向の流動性が生まれる。 さらに、階層再編成によりスポンサーにとっても投資対象が明確化される。下位ツアーは若手や再起を図る選手のストーリーを提供し、上位トーナメントはエリート選手が集うことでブランド価値を高める。ファンにとっては、目の前で活躍する選手が将来メジャー大会で勝利をつかむかもしれないという「成長物語」が観戦の魅力を高めるだろう。 もちろん、こうした大規模な再編にはツアー間の協議や国内外ゴルフ関係者の同意が不可欠である。一朝一夕に実現するものではない。しかし、トップ選手が国境を越えてツアーを選ぶ時代において、国内ツアーが「ガラパゴス化」したままでは衰退は避けられない。世界に連なる序列の中で自らのツアーを位置づけ、上昇可能な明確な「道」を整備することに活路ありと思う次第である。(小林至・桜美林大学教授)