家族旅行なんて「贅沢」でできない…多くの人が感じている「体験格差」という現実
後回しになっている「子どもの体験」
「このゴールデンウィークは、どこに行くのも高いのでずっと家で過ごして終わりました」 【写真】低所得家庭の子どもの約3人に1人が「体験ゼロ」の衝撃! 私の取材に、都内に住む杏子さん(40代)は苦笑いした。50代後半の夫の収入が1年前に減ってしまい、世帯年収はそれまでの約900万円から約600万円に落ち込んだ。そこから税金や保険料が引かれ、家のローンなどの生活費だけでも家計はカツカツ。以前は、連休があればレンタカーを借りて1~2泊の旅行を楽しんだが、その余裕がなくなった。 杏子さんは小学生2人の子育て中だが、連休前、子どもたちは学校で「ゴールデンウィークにどこに行くか」という話題でもちきりだった。沖縄旅行やディズニーランドなどに出かける家庭もあれば、友達同士の家庭で連れ立ってキャンプやグランピングというケースも。 中学受験を意識しているママ友からは「実際に行けば覚えるだろうから、社会の勉強のために遺跡巡りに出かける」と聞かされ、焦りを感じてしまう。 「本当は、近いところでも出かけて1~2泊させてあげたかったのですが、インバウンドもあってホテルの値上がりがすごい。外食するのにもいつの間にか高くなっているし。今は家族旅行なんて贅沢でできません。きっと夏休みも同じ。こうした積み重ねで子どもが将来をあきらめていくことにならないか」と、杏子さんは悩んでいる――。 日本の賃金が伸び悩み、たとえ平均年収を得ていたとしても、ちょっと出かけよう、ちょっと外食しようという、いわゆる“普通”の生活ができにくくなるなか、親の収入格差が子どもの「体験」にダイレクトに影響を与えている。 子どもの貧困については社会の目が向きつつあり、「食事」や「学習」の支援が広がりを見せている一方で、スポーツ、レジャーなどの子どもの「体験」が後回しになってはいないか。そうした問題についてまとめたのが『体験格差』だ。
「無理をする」「求めない」「あきらめる」
著者の今井悠介氏は、公益社団法人チャンス・フォー・チルドレンの代表理事を務める。今井氏は東日本大震災を契機に当時勤めていた会社を辞めて、学生時代の仲間とともに被災した子どもたちの支援を始めた。 東日本大震災で被災した子どもたちの支援をするなかで、たまたま被災したから、たまたま低所得の家庭に生まれたから、そうでない子どもと違って十分に勉強する機会が得られない、通いたい塾に通えない、あるいは進学したい学校を目指せない。今井氏は、そういう子どもたちとたくさん出会ってきた。 今井氏が出会ったシングルマザーの息子は、ある日突然、泣きながら「サッカーがしたいです」と母に言ったという。家の経済状況に余裕がないことを子どもながらに察して、何かがしたいと言い出せないでいる子どもたちがいる。 子どもが悩んだ末に想いを口にした先に、その願いが実現することがあるのだろうか。著者は、体験格差の3つの姿として、「無理をする」「求めない」「あきらめる」ことを問題視する。 多様な「体験」を「したいと思えば自由にできる(させてもらえる)子どもたち」と「したいと思ってもできない(させてもらえない)子どもたち」がいて、そこには明らかに大きな格差が生じている。 宮城県仙台市で事務所を立ち上げ、設立した「チャンス・フォー・チルドレン」という団体名には「たまたま生まれ育った環境によって、子どもたちが得られる人生の機会に格差があってはいけない」という意味が込められている。