「誰にも無限の可能性がある」多くの社員の天分を開花させた稲盛和夫の「許す心」
京セラを創業し、JALを再建したことで「経営の神様」として今なおビジネスパーソンに多大な影響を与える故・稲盛和夫さん。約30年間にわたり最側近として稲盛さんの仕事を間近で見てきた大田嘉仁さんが、稲盛さんの言葉や教えを書き留めたノートは実に60冊にもなる。そんな大田さんが選りすぐった稲盛さんの言葉とは(第3話)。 【稲盛氏の言葉】リーダーが持つべき三つの要素 *本記事は『運命をひらく生き方ノート』(致知出版社)の一部を抜粋・再編集したものです ■ リーダーは夢・ビジョンを語らなくてはいけない リーダーの大きな役割の一つに、事業の夢・ビジョンを語ることがあります。それについて、稲盛さんは次のように説明しています。 1.将来こうありたいという明確なビジョンを持っている。 2.なぜ、そのようなビジョンを目指すのかという明確な大義名分、使命感がある。そして、その根底には全従業員の幸福を追求するという思いがある。 3.ビジョンを達成するために日々判断をしなくてはならないが、その判断基準は誰から見ても正しいものでなくてはいけない。目標を達成するのに手段を選ばないようでは永続的な成長はできない。それゆえにリーダーは素晴らしい人間性を持っておかなければならない。リーダーの人間性がいびつになれば、ビジョンもいびつになる。 夢・ビジョンを語る際には、根底に「全従業員の幸福を追求する」という思いが必要だということであり、さらには、なぜそのような夢やビジョンを目指すのかという大義名分が明確でなければならないというのです。 稲盛さんは「リーダーの人間性がいびつになれば、ビジョンもいびつになる」と警鐘を鳴らしています。リーダーの自己顕示欲や利己心が強ければ、つまり動機が不純であり私心があれば、そのリーダーが作るビジョンもその人間性が反映されたいびつなものになると指摘しているのです。
■ リーダーが持つべき三つの要素 「リーダーが持つべき三つの要素」として、稲盛さんは「人格」「統率力」「知性・能力」を挙げ、次のように整理しています(以下のまとめ参照)。 この人格や統率力が人間性にあたります。これを高めなければ、誰もが納得できるようなビジョンを作ることも、組織をまとめ、そのビジョンを一緒に目指すこともできないと教えているのです。 この中の「能力」については、次のようにも説明しています。 「リーダーには、問題が発生した際に、瞬時に解決策を示す能力が必要になる。そのために正しい判断基準と極めて高い集中力と洞察力が不可欠だ。集中力と洞察力は、常日頃から神経を研ぎ澄まし、物事に真剣に向き合い、徹底して考える習慣を身につけていなければ、問題が起きたときに発揮できるようになるものではない」 これに加えて、「リーダーは組織に影響力があり、個々のメンバーに自分の考えを説明し同調してもらうだけでなく、自分の望む方向に導く牽引力、指導力が必要」とも説明し、さらに「優れた企画力が必要」であり、それにプラスして「先見性、分析力、判断力、胆識(実行力)が不可欠」とも指摘しています。 当然ですが、リーダーは困難に直面しても、それから逃げずに真正面から立ち向かわなくてはなりません。「妥協は私心だ」と稲盛さんは言い、困難から逃げることを厳しく戒めています。 それどころか、「今やっている仕事を掘り下げていくと新たな課題が次々と見つかり、それを解決するには多大な苦労をしなければならないことが分かってくる。それから逃げずに、乗り越えようとするのが真のリーダー」と教え、自ら課題を探し、それに立ち向かう必要性も強調しています。 この言葉は、私に反省を促すものでもありました。私自身、掘り下げれば新たな課題が見つかりそうになると、掘り下げるのをやめ、その場しのぎの仕事をしようとすることがよくあったからです。