「誰にも無限の可能性がある」多くの社員の天分を開花させた稲盛和夫の「許す心」
■ 部下の天分を開花させるには 稲盛さんが唱えるリーダーの役割の一つに「人を見抜き、育てる。そして天分を開花させる」というものがあります。 繰り返し説明しているように、稲盛さんは「誰にでも無限の可能性がある」と信じて、全員のやる気が少しでも高まるような経営をしてきました。その結果として社員個々人の天分を開花させ、本人の物心両面の幸福を実現させ、京セラやKDDI、JALを大きく発展させてきたのです。 このような発想も、稲盛さん自身の経験がベースになって生まれています。 若いときに多くの不運・挫折を経験し、自分には能力がないことを痛感していた稲盛さんは、松風工業時代に仕事を好きにならざる得ない状況に置かれました。そこで覚悟を決めて仕事に没頭した結果、技術者としての天分を開花させることができたのです。 京セラ創業後は、11名の高卒採用者の反乱に遭ったことが契機となり、経営者としての天分も開花させることもできました。そのような経験を通じて、誰にも無限の可能性があるのだから、その天分を花開かせるのがリーダーの役割だと稲盛さんは信じているのです。 もし経営者が「自分の会社には才能ある社員はいない。社員のレベルは他社と比べると劣っている」と思えば、成長できるはずはありません。 そうではなく「こんなちっぽけな会社に、なんと素晴らしい社員に集まってもらったのだろう。この社員たちをどうしても幸せにしてあげたい」「誰にでも無限の可能性があるのだから、才能はどこかに隠れているはずだ。それを開花させれば、大きく成長できるし、全従業員の幸福は実現できる」と思えば、結果は全く違ってくるでしょう。 そのために必要なのが、「人を見抜き、育て、そして天分を開花させる」という考え方なのです。
■ 「継続が愚鈍を非凡に変える」 京セラ創業当時、稲盛さんは、優秀な社員がいないことを嘆くことはしませんでした。「どんくさいやつがいいんだ。頭の良いやつは先を見て、すぐ逃げてしまう」と、それさえ前向きに捉えるようにしていました。 実際に、優秀な人が入ってくると大いに期待するのですが、そんな人ほど職場環境の劣悪さや待遇の悪さばかりを気にして、面倒な仕事を避け、結果として天分を開花できずに辞めてしまうことも多かったと言います。 それよりも、厳しい環境の中でもコツコツと努力を重ねるどんくさい人のほうが、やがて天分を大きく開花させることができたのです。それを稲盛さんは「継続が愚鈍を非凡に変える」と表現しています。 その意味では、リーダーにとって「人を見抜く」というのは、コツコツと努力を継続できる人間なのかどうかを見抜くことであり、「育てる」とは、その愚直な努力を認めて継続させることなのです。そうすれば、時間はかかっても「天分を開花させる」ことができるのです。 稲盛さんは、意外な人を登用した際、その理由を聞かれ、「なぜなら、努力を継続できるから」と答えたことがあるそうです。まずは才能のあるなしより、コツコツと努力を継続できる人間なのかどうかを見抜くことが大切になるというのです。 人間の無限の可能性を信じ、人を見抜き、育て、天分を開花させることによって、すべての社員の能力をフルに発揮させることができれば、どんな企業でも必ず成長できるはずです。そして、これができるリーダーが、その会社を大きく発展させていくのです。 稲盛さんは「創業当初、京セラが中小零細企業の頃には、学歴の高い人、優秀な人は来てくれなかった」けれども、「そのときのほうが次から次へと新製品を生み出ことができた」と話していました。それは稲盛さんが当時の全社員の天分を見抜き、フルに開花させたからに他なりません。(終わり)
大田 嘉仁