開業13年目のFPが仕事で使う「危ない投資」の見分け方。(中嶋よしふみ ファイナンシャルプランナー)
■AT1債ってなんだ?
2023年3月、クレディ・スイスが経営危機に陥り、ライバルのUBSによって救済買収された。この際、クレディ・スイスが発行していたAT1債が約170億ドル相当も無価値になるという前例のない事態が発生した。 その理由は救済買収をおこなったUBSに対して、スイス政府が90億スイスフラン、当時のレートで約1兆2000億円余りの政府保証を行うとしたからだ。これがクレディ・スイスの発行していたAT1債が無価値になる条件「スイス当局が銀行が破綻のおそれがあるとみなしたり、例外的な政府支援を行ったりした場合」に該当するとされた。 この処置に対しては投資家から財産権の侵害であるとして訴訟の動きもあるという。 (参照・クレディ・スイス「AT1債」無価値の衝撃 NHKWEB 2023年3月26日) AT1債(Additional Tier 1 Bond)は、銀行が自己資本比率を向上させるために発行する劣後債の一種、ようするに資金調達手段の一つだ。劣後債を理解するには株と債券の意味を知る必要がある。なぜなら劣後債には両者の性質があるからだ。
■劣後債ってなんだ?
企業が資金調達をする手段は債券(借金)と株の大きく二つに分けられる。 株と債券の違いは返済の必要があるかないか、とも説明される。この説明は分かりやすいようでいて正確性に欠けるため、ぎりぎり半分正解といったところだろう。 債券を買う事は他人にお金を貸すこととほぼ同じで、当然その会社がつぶれない限りは利息を付けて返済される。 一方で株を買う事は、投資家として会社の保有者・オーナーになることであり、そもそもお金を返す・返さないという言い方自体がそぐわない。両者は全く性質が異なる。 では株と債券、両方の性質がある劣後債とは何か。 そもそもお金を貸して利息を受け取る行為は、その企業の倒産リスクにお金をかける行為に近い。個人向けの融資でも借りる人によって金利が変わることがあるように、破綻リスクが高い企業ほど融資の金利は上がる。 劣後債は通常の債券より名前の通り劣後する、つまり企業の業績が悪化した際には返済が後回しにされる。要するにその分だけリスクが高い。当然、ハイリスク・ハイリターンの原則でリスクに応じて利回りも高くなる。 銀行は一定の自己資本をクリアする必要があり、AT1債は債券でありながら自己資本に組み込んで良いとされている。自己資本とは株で調達した資金であり、自己資本比率とは企業が保有する資産に占める自己資本の割合だ。つまり劣後債は株に近い性質がある。 AT1債は通常の債券と異なり、銀行の財務状況が一定の基準を下回った場合に株式に転換される可能性がある。これにより銀行は資本を強化して危機時の負債削減に役立てることができる。銀行目線で見るとわざわざ高い利回りで資金調達をする理由はここにある。
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