【無限に続く数の不思議】「あなたの誕生日が円周率の中に隠されている」という驚くべき結論
天才数学者たちの知性の煌めき、絵画や音楽などの背景にある芸術性、AIやビッグデータを支える有用性…。とても美しくて、あまりにも深遠で、ものすごく役に立つ学問である数学の魅力を、身近な話題を導入に、語りかけるような文章、丁寧な説明で解き明かすロングセラーの数学読み物『とてつもない数学』。鎌田浩毅氏(京都大学教授)「数学“零点”を取った私のトラウマを払拭してくれた」(「プレジデント2020/9/4号」)、「人気の数学塾塾長が数学の奥深さと美しさ、社会への影響力などを数学愛たっぷりにつづる。読みやすく編集され、数学の扉が開くきっかけになるかもしれない」(朝日新聞2020/7/25掲載)、佐藤優氏「永野裕之著『とてつもない数学』は、粉飾決算を見抜く力を付ける上でも有効だ」(「週刊ダイヤモンド2020/7/18号」)、教育系YouTuberヨビノリたくみ氏「色々な角度から『数学の美しさ』を実感できる一冊!!」と絶賛されている。今回は、著者の書き下ろし原稿を特別に掲載する。 ● 円周率とあなたの誕生日 円周率(π)は、3.14159…と小数点以下に不規則な数字が無限に続くことで知られている。この「無限に続く」という性質は、数学における最も神秘的で魅力的な現象のひとつだと思う。 ただ、その本当の意味を理解している人は、実は多くない。無限は、単に「終わりがない」というだけでなく、数え切れないほどの可能性を秘めているのだ。 たとえば、あなたの誕生日が円周率の中に隠されていると想像したことはあるだろうか。1月1日生まれなら「0101」、12月31日生まれなら「1231」といった具合に、自分の誕生日が円周率のどこかに存在していたら、何か特別な運命を感じてしまうかもしれない。しかし、あなたの誕生日は必ず見つかる。 さらに驚くべきことに、西暦を足して「19901231」のように8桁の生年月日にしても、円周率の中には間違いなくその並びが存在する。 数学的に説明すると、円周率は無限に続く非周期的な数字の列であり、すべての数の並びを含むと考えられている。どんなに特別な数列であっても、それは円周率のどこかに存在する。これは「無限の中にはすべてが含まれる」という、直感を超えた話である。 この考えを確かめたいときには、「Irrational Numbers Search Engine」というオンラインツールが役に立つ。このツールを使えば、自分の誕生日や好きな数字の並びが円周率のどこに出てくるかを簡単に探すことができる。 興味がある方は検索してみてほしい。ちなみに筆者の生年月日は小数点以下8280万桁目あたりに見つかった。 無限に続く円周率の中に、自分の誕生日や大切な数字を見つけることができると、不思議な感動を覚えるであろう。まるで、無限の宇宙の中に自分自身の小さな痕跡を見つけたかのような、そんな気持ちを抱くのではないだろうか。 ● 数学には「さまざまな無限」がある 無限は円周率だけに存在するわけではない。数学の世界には、さまざまな種類の「無限」が存在している。たとえば、自然数(1, 2, 3, …)の無限は、誰もが知っているものである。 この無限も終わりがなく、どこまで数えても尽きることがない。無限は広大であるだけでなく、まるで夜空の星々のように、その輝きはそれぞれに異なる。 さらに興味深いのは、-0.5や√2のような数も含む「実数の無限」のほうが「自然数の無限」よりも大きいということである。これは「カントールの対角線論法」と呼ばれる証明で示されるものであり、「無限の大きさ」には種類があり、さまざまな無限が存在するという驚きの結論をもたらす。 こうした概念を通して、無限はただの「終わりがないもの」ではなく、非常に多様で奥深いものであることが分かる。 ● 無限を研究した先駆者 19世紀の数学者ゲオルグ・カントール(1845-1918)は、無限の概念を初めて体系的に研究した先駆者だ。彼は「集合論」を用いて、無限の大小についての理解を深めた。 カントールの研究は当時の数学界で大きな論争を巻き起こした。無限の大きさが異なるという考え方は当時の人々には受け入れがたく、カントール自身も批判に晒された。 しかし、彼の仕事は後の数学の基礎を築き、現在では集合論として広く認識されている。カントールの無限に対するアプローチは、無限の世界を具体的かつ論理的に理解するための重要な礎となっているのである。 無限にはさまざまな顔があり、それらを理解することで、数学の持つ広がりと奥深さが感じられる。無限のとてつもなさに驚くことは、数学を学ぶ喜びのひとつである。 (本原稿は『とてつもない数学』の内容と関連した書き下ろしです。)
永野裕之