子どもの意見表明支援「アドボカシー」始動 浜松の団体、養護施設訪問で声代弁へ
社会的養護を必要とする子どもたちが意見を示せるように支援する「子どもアドボカシー」の実践的な活動が今秋、静岡県内で動き出した。研修を修了したアドボケイト(意見表明支援員)が定期的に児童福祉施設などに出向き、子どもと信頼関係を築きながら第三者の立場で子どもの思いを聴いたり代弁したりする役割を担う。 6月に設立した浜松市の民間団体「こどもアドボカシーセンター浜松(通称・あどはま)」のメンバー3人は10月中旬、アドボケイトとして浜松市中央区の児童養護施設「わこう」を訪ねた。リビングで休日を過ごしていた小学生のなかに入り、動画を示しながら子どもの権利やアドボカシーについて説明を始めた。「君たちが職員の人に言いたいことを代わりに言ったり、思っていることを聴いたりできるよ」。アドボケイトの馬場寿一さんは、優しい口調で語りかけた。 すごろくをしながら子どもの権利条約を学ぶゲームも子どもたちと一緒に楽しんだ。イライラした時の対応に「黙る」と発した子どもに「本当は言いたいんだよね?」と伝え返すなど、子どもの表情や態度も観察しながら言葉を受け止めた。6年生の男子は「伝えたいことが言えない子もいるから、アドボカシーはいいことだと思う」と話した。 4月施行の改正児童福祉法では、都道府県や政令市などが社会的養護の子どもの意見を聴く取り組みが規定された。先行自治体の多くは、アドボケイトの事務局機能や養成・派遣を外部団体に委託している。本県も年度内に事業を開始するため委託先を募集中で、浜松、静岡の両市は体制構築に向けて調整を進める。 わこうは3年ほど前から、独自の取り組みとしてボランティアがアドボケイトの役割を担っている。徳田義盛施設長は「家族が保障されていない子どもたちには(話を聴いてくれる人の)選択肢がより多く必要」と述べ、公的なアドボケイトの派遣を歓迎する。自分の生い立ちや家族について真実を知らされずに施設に来る子どもは多く、課題に直面した際に「自分は一人ではない」と思える環境をつくることが重要だという。「施設職員だけでなく独立した立場の伴走者も欠かせない」と強調する。 あどはまの藤田美枝子代表理事(聖隷クリストファー大教授)は「子どもの権利の普及・啓発にも力を注ぐ必要がある。子どもの声を聴くことが当たり前の社会を目指したい」と話す。 <メモ>アドボカシーはラテン語の「voco(声を上げる)」に由来する。アドボカシーの活動の一つとして、研修を修了したアドボケイトが一時保護所や児童福祉施設、里親家庭などで生活の悩みや不満、生育環境を決める措置に関する意見などを聴く。希望に応じて子どもの意見を関係機関に伝える。 乳幼児や障害児など言語による意見表明が困難な場合は、表情や行動などからくみ取る。子どもの権利や権利擁護の仕組みの周知・啓発も不可欠とされる。
静岡新聞社