政府の財政健全化目標と日銀の国債買い入れ減額:政府・国会は日銀頼みの財政運営からの脱却を
PB黒字化目標は財政健全化に向けた「一里塚」でしかない
PBの赤字が続く中で、同比率が頭打ちから低下したのは、日本銀行の異例の金融緩和策によって、金利が低位に抑えられていたことによるところが大きい。しかし、日本銀行が短期金利を引き上げ、国債買い入れを減額するなど、金融政策の正常化を進める中では、同比率の低下は続かなくなる。PB黒字化目標と政府債務残高のGDP比率の低下は同等の目標となる。ただし、それならば、PB黒字化目標だけでよいだろう。 しかし、PB黒字化目標は財政健全化に向けた第1歩、「一里塚」でしかない。それが達成されれば、次は財政収支全体の黒字化目標や、政府債務残高のGDP比率の一定水準までの低下へと、新たな目標へとシフトしていくことが求められる。財政健全化の道のりはなお遠い。
政府、国会は日銀頼みの財政政策運営からの脱却を
鈴木財務相は6月18日の記者会見で、日本銀行が国債買い入れの減額方針を示したことに関連し、また、今後金利上昇で利払い費が増える可能性が高いことを踏まえて、「借金に過度に依存しない財政構造を確立していく」と決意を語った。さらに、「財政健全化を推進し、新規の国債発行を可能な限り抑制することも重要だ」と強調した。 日本銀行は、7月の次回金融政策決定会合で、今後1~2年の国債買い入れ減額の具体的な計画を発表する。日本銀行が国債発行の半分以上を保有する現状は、様々な弊害を生んでいる。国債の流動性を低下させるなど、市場機能を損ねている面がある。また、日本銀行が資産サイドで大量に国債を保有していることは、負債サイドで巨額の当座預金(超過準備)を抱えていることを意味する。そのもとで付利金利を引き上げていけば、日本銀行の収益が悪化し、経常赤字に陥るリスクもある。 しかし、日本銀行の国債買い入れが生じさせている最大の副作用は、財政の規律を損ねている点なのではないか。日本銀行が金利を低位に維持し、また国債を大量に保有している環境では、政府が積極財政政策を行うために国債を大量に発行しても、金利が上昇するなどの問題が生じない、との主張が、政府、与党内、国会内でしばしば聞かれてきた。しかし、こうした状態は、政府、国会が、財政運営の責任を事実上放棄している状況ではないか。 財政規律の低下は、国債発行を促し、長期的に財政危機のリスクを高める。また、国債発行が国民に与える負担が、経済の潜在力を損ねてしまうという問題もあるだろう。 この点から、日本銀行のマイナス金利政策解除や国債買い入れの減額方針は、政府、国会が財政政策運営に自ら責任を持つように迫る、重要なメッセージとなる。自民党内の積極財政派も、このメッセージをしっかりと受け止めて欲しい。 木内登英(野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト) --- この記事は、NRIウェブサイトの【木内登英のGlobal Economy & Policy Insight】(https://www.nri.com/jp/knowledge/blog)に掲載されたものです。
木内 登英