「このままでは僕の代で終わり」 氷の卸売業からメーカーに転換して切り開いた米国市場
かき氷の移動販売もサブスクも
コロナ禍では「クラモトアイス」という看板を掲げ、かき氷をキッチンカーで移動販売しました。自社工場前や商業施設などで提供し、2020年は8千杯を売り上げました。質の高い氷を広める目的でしたが、思わぬ効果も生まれます。「この会社は面白く成長しそうと思ってもらい、リクルーティングにつながりました」 氷を卸しているかき氷店には「金澤氷室」の旗を置いてもらい、知名度や信用度も上げ、入社当初8人だった従業員は26人に増えました。 4年前からは地元企業と協業で、海外向けにかき氷シロップの開発も進めています。「金沢の特徴も相乗効果も出せます。来年はじめにシンガポールへの輸出で試そうと思っています」 2022年からは「自宅をBARに」をコンセプトに、サブスクリプションサービス「icecle」もはじめました。月6千円で専用氷とバーテンダー監修の目盛り付きグラス、お酒に合う音楽まで提供しています。 「どの事業でも氷の価値を広げるのが大前提で、合致しなければやらないと決めています。氷をご家庭に届け続け、日用品のようにしたいのです」
債務超過から過去最高売り上げに
メーカー転換による設備投資やコロナ禍の影響は大きく、クラモト氷業は2021年、2022年は債務超過の状態でしたが、資金繰りもようやく安定しました。創業100周年の2023年には輸出やネット通販の伸びで、売り上げは過去最高に達しました。 蔵本さんは100周年記念パーティー開催の打ち合わせのとき、父に社長交代を提案し、2024年4月、社長に就任しました。 現在は生産性を高めるため、工場を増築し、機械の開発も進めています。「世界に1台の機械をつくろうと、切断や搬送を専門とするメーカーと取り組んでいます」 前職の配電盤メーカーでの経験も役立っています。「機械の動き方や条件設定、電気信号などの仕組みが理解でき、機械メーカー側と話ができるので、着地も早いのです」
金沢を氷の聖地にするために
クラモト氷業は2024年10月、石川県の「ニッチトップ企業等育成事業」にも選ばれ、さらなる飛躍を目指します。 「シンガポールにも進出する2025年は前年比120%が目標です。再来年には売り上げに占める輸出の割合が50%を超えると見込んでいます」 蔵本さんの将来ビジョンは、金沢の文化と世界を氷でつなげる未来です。 「金沢は氷室の文化があり、水がきれいで、自然が豊か。その風土からクラモトの氷を求めて、海外から観光に来る人もいます。金沢が氷の聖地になれば、経済効果も生まれます。未来の夢として、金沢をかき氷の街にしていけたら面白いですね」
ライター・近藤幸子