「このままでは僕の代で終わり」 氷の卸売業からメーカーに転換して切り開いた米国市場
米国でヒットしたスティックアイス
グラスのサイズが大きい米国は、かち割り氷なども日本より大きなものが必要です。蔵本さんは補助金を再び活用し、自動で計量できる設備を整えるなどしました。 加工済みの商品をテストで輸出した際は約2割が割れたため、緩衝材を細かく配置するなど工夫しました。現地の倉庫や物流業者と連絡を密に取り合い、「氷は溶かしてもいけないし、割ってもいけない」ということを何度も伝えました。 「初期のころ、ウニと一緒に積んだ時は、ウニを冷やす氷と思われていたことすらありました。氷の荷扱いはそれくらい珍しいことでした」 荷物の到着前は必ず連絡して取り扱いの注意を促し、現地に出向くこともありました。 海外向けに開発したのが、棒状で3センチ角のスティックアイスです。グラスに入れて酒を注ぐと、氷が見えなくなるほど透明になるため、「ニンジャ」と呼ばれました。米国の主要都市の高級レストランやバーで提供され、1トンからはじめた輸出も2023年には220トンに拡大しました。 2024年には豪州に現地法人を設立し、シンガポールでも準備を進めています。2024年の輸出量は米国360トン、豪州40トンを見込んでいます。
ユーチューブから広まった通販
蔵本さんは「日本一SNSに取り組む氷屋と自負しています」と強調します。 国内向けのインスタグラムは蔵本さん自身が担い、BtoCを意識し、感情を込めてコミュニケーションが取りやすい内容で発信。一方、海外はネイティブの現地スタッフが、バーなどBtoBを意識し、簡潔に分かりやすく発信しているほか、ファミリービジネスやサステイナビリティーを印象づける投稿を増やしています。 SNS発信は、売り上げの1%にも満たなかったネット通販の拡大にもつながりました。一時は15%まで高まったのです。 2022年、名古屋市のインフルエンサーがウイスキーバーを開く際、蔵本さんが「楽しみにしています」とメッセージを送ったことがきっかけでした。その翌日、「クラモトさんの氷を使いたい」と言われ、招かれたパーティーで人気ユーチューバー・ちゃんぽんちからさんを紹介されました。 ちゃんぽんちからさんは酒の作り方などを発信し、約47万人のチャンネル登録者を抱えます。「うちのスティックアイスを気にいってくれ、おいしいハイボールの作り方の動画などで使ってくれました」 動画が反響を呼び、大手ネット通販サイトから急激に注文が入るように。入社したころ2011年はゼロだったネット通販での購入が、2023年には5千件に伸びたのです。 「良いお酒は当たり前のようにネットで買えますが、氷の選択肢は限られていました。そこにうまくアプローチできたと思います」 蔵本さんは「氷を選ぶ時代になりました」というキャッチコピーでブランド化を進めました。販路も石川県内の飲食店から、全国のドラッグストアやスーパー、百貨店、酒販店などに拡大。PBや全国流通している氷の横に、クラモトの「金澤氷室」が並ぶといいます。 「無味無臭で味は変わらない氷に、選んで買うという文化はありません。どう価値を付けていくかが勝負です」