大型移籍連発のラグビー・リーグワン。懸かる期待と抱える課題、現場が求める改革案とは?
「カテゴリーA」の海外勢の価値の高まり
もっとも市場の活性化は、各クラブの人件費を引き上げる側面もある。渦中、特に大幅に年俸が上がりやすいのが「カテゴリーA」の海外出身者だと指摘される。 リーグワンには、プレーヤーの出場枠を定める「カテゴリー」という区分けがある。そのうち「A」は、11人以上の同時出場が義務付けられる枠だ。 「A」は日本代表になる資格を持っている選手が該当する。これは国内出身者に限らない。 日本代表主将を経験したリーチマイケルのような日本国籍の保持者はもちろん、ディラン・ライリーをはじめとした所定の国内連続居住年数を満たして日本代表資格を得た者も「A」にあたる。 つまりチームの編成や首脳は、「A」の活用方法によっては体格のよい外国人選手をフィールドにずらりと並べられるのだ。 いまは多くのチームが、他国代表経験者からなる「C」に一流のワールドクラスを揃える。つまり、各チームのトップ層の実力は接近している。そうなると求められるのが、それに次ぐ層の充実だ。各チームが他チームで活躍する「A」の海外選手を好条件で誘いたがるのは当然といえる。現役日本代表選手が少なかったり、優秀な大卒選手のリクルートに苦しんでいたりするチームならばなおさらだ。その延長線上に、「A」の海外勢の価値の高まりがある。 リーグワンの東海林一専務理事は、「カテゴリーAの中に詳細な枠を定める必要はないか」と検討する。将来的に、これまで「A」に一本化してきた国内外の面子の区分を見直す見込みだ。 リーグワンの1部加盟のチームのスタッフによると、この「細分化」の最大の狙いは「カテゴリーAの外国人選手の高騰化を防ぎ、各チームの運営をより持続可能にすること」。あらゆる選手の人権を考慮した、最適解の構築が求められる。
育成チームがおざなりにならない仕組み作りを
新しい時代に沿ったレギュレーションの微修正案は、各チームからも出ている。 旧トップリーグで5度優勝したサンゴリアスの田中澄憲ゼネラルマネージャー(GM)は、監督を務めていた昨季途中に「レンタル移籍」の導入を勧めていた。 リーグ全体では、2軍同士のサテライトリーグのような形式は、興行的にも、現場の戦力確保の観点からも成立しづらそうだ。 そんななか、歴史的に有力な学生選手を採用してきたサンゴリアスの田中GMは、一人でも多くの実力者が何らかの形で実戦経験を積めたらよいと話す。 「例えば出場機会がない選手が違うディビジョンのチームへレンタル移籍ができるようになるなどのシステムができれば、もう少し落ち着いてくると感じます」 リーグワンのディフェンディングチャンピオンであるブレイブルーパスの薫田真広GMは、移籍金制度を採り入れるべきだとする。 不適切会計が報じられた親会社から独立して久しいブレイブルーパスでは、ここ数年、自軍で育てた「A」の実力者がライバルチームに移るケースが相次いでいた。 薫田GMは「移籍による活性化は、リーグ全体にとってはいいこと」としつつ、「我々は選手を育てる文化を継続させたい」と揺るがぬ決意を語る。そのうえで、いずれマネーゲームの成否のみで成績が左右されるようにならないかと憂慮する。 「簡単に言えば、(現状では極端な引き抜きによって)簡単にそのチームを潰すこともできてしまいます。何か、移籍を制限するのではない、選手を育てた側にアドバンテージのある一定のルールがあればと感じます。チームが選手を育てる文化を作らないと、そのチームは長続きしないし、リーグも発展しません」