知るほどに深く面白い! “大人の遊び”「香道」の世界とは?
蜂谷 そこから今日まで、初代が創作した所作や作法、そこに流れる精神や魂、そういったものを550年途切れることなく父まで20人の家元が継承してきました。ちなみに私はその最終ランナーではありません。私の役目は、これまで歴代家元20人が紡いできた同じ時間、ここから更に500年香道が続いていくようにすること。いつもそのことを考えています。 石井 大変な長さですね。僕らは仕事のことを100年単位では考えてないですから(笑)。 蜂谷 私の場合は、物心ついた時から初代のことに思いを馳せたり、成長が百年単位の沈香に囲まれて育ってきましたから、自然と300年後、500年後を意識してしまいます。 石井 それは、なかなか人と話が合わないですね(笑)。
【ポイント】
■ 香道では香りに合わせて和歌を詠んだ ■ 鎌倉時代以降、香道は武士の間にも広まった ■ 千利休や本阿弥光悦、全国の大名たちも志野流の香道を学んだ
人間も本来、体の全部で外の情報を捉える機能を持っている
蜂谷 茶道で使うお抹茶は毎年新茶ができますね。華道で使用するお花も身近な場所に様々咲いています。茶道・華道がここまで世界に広まったことと、香道が一部の愛好者にのみ留まったのには、使用する素材の希少さも関係しているのです。 沈香ができるまでには100年以上の年月がかかります。沈香ありきの香道は、自然界の時間的な動き、もっと言えば宇宙の法則に則って、修得していかなければなりません。 田中 木がなくなれば香道も続けられないですからね。 蜂谷 今、私どもは植林活動もしておりますが、そこから香木が採取出来るのは自分の孫やひ孫の代になるでしょう。世界のリーダーたちが環境問題について議論していますが、人間同士が国際会議で話し合うことより、木を含めた自然界に目と耳を向けて対話することが大事だと思います。木は丁寧に日本語で説明はしてくれませんが、何かしら、波動のようなもので繋がることが出来ます。 石井 木と対話、ですか……。 蜂谷 これは友人の脳科学者の方が言っていたことですが、同じ空間にいる人や、すれ違う人を「この人、気が合いそうだな」とか「この人苦手だな」というように、感覚として毛穴や細胞含め、五感全部で捉える機能を持っているんだそうです。本来、目は最終確認作業で使うくらいのものなんだとか。 現代人は目と耳で情報収集することが多く、嗅覚はほとんど使っていないのです。犬や猫、ライオンといった動物たちはかなりの情報を嗅覚で入手しています。でも人間も動物ですからね。オフになっている嗅覚スイッチを、今の時代オンにすることが大事ですね。