大阪商人は「利益の追求は徳」と考えた 令和の時代に脚光
杉本氏:ぶっちぎりで多かったのが「貢献(心)」です。日本企業は、社会貢献という言葉が大好きなんですね。 ああ、「社会貢献」とか「社会に貢献する」とかよく見ますね。 杉本氏:下の表(前ページ【関連画像】)は、頻度が高い徳を抽出したものです。1つ注意したいのは、そもそも徳とは何なのかということです。この研究では、倫理学の伝統もふまえて、徳を「開花繁栄を構成する性格特性」と定義しています。企業理念に使われる言葉はさまざまですから、その中でこの定義に合致するものを「徳」として抽出したわけです。 ●見過ごされてきた日本固有の「徳」 この調査結果からどのようなことが読み取れますか。 杉本氏:実はこの結果と、私も含めた日本のビジネス倫理学研究者がこれまで注目してきた組織の徳とを比べてみたんです。そうすると、かなりズレているんですね。例えば我々研究者は、アリストテレスの賢慮、勇気、節制、正義をはじめ、チーム精神、チームワーク、インテグリティー(誠実さ)、協働、信頼性といった徳に注目して、日本企業について論じてきました。 でも今回の結果を見るかぎり、研究者が考えてきたビジネスの徳と、実際に経営理念に表れている徳はかなり違っていることがわかりました。これは自戒を込めて言うと、私たち研究者は、西洋の研究ばかり参照する傾向が強いため、日本に固有の徳を見過ごしてきた可能性があるということです。 日本に固有の徳というと、研究対象としてはどういったものがありますか? 杉本氏:今、江戸時代の私塾である「懐徳堂」について研究しています。私も研究を始めたばかりなので、中間報告的な話しかできませんが、興味深いですよ。 懐徳堂は、1724年(享保9年)に大阪に設立された町人の学問所です。「懐徳」という言葉には、「徳を心に深く省みる」という意味が込められています。面白いのは、鴻池屋など、当時の大阪の豪商が出資して設立されたということです。だから商人の気風に根ざした学問所なんですね。有名なところでは、「天才」と謳(うた)われる富永仲基や「番頭」だった山片蟠桃がここで学びました。 懐徳堂には3カ条の「定」があって、その第1条は「書生の交りは、貴賤貧富を論ぜず、同輩と為すべき事」とあります。懐徳堂には町人も侍も来ていましたが、学問的な交流は、身分を気にしないで、みんな仲間だと考えようと言っている。あと、仕事が入ったら、いつでも退出していいというルールもありました。 そこにも町人の自由な気風が反映されているのかしれませんね。