<ラグビー>2019年日本W杯に向けて日本代表で起きている熱き司令塔争い
後半10分からスタンドオフに入ったのは、22歳の山沢拓也だ。深谷高3年の夏に候補入りした日本代表で、この日、約5年越しでのデビューを果たした。持ち前のランニングスキルで防御を裂いたシーンでは、パスをすべきタイミングを逸してあえなく落球する。しかしそれも、今後に向けたよきレッスンか。 筑波大4年だった昨季、パナソニックに加入。大学生トップリーガーとして話題を集めた。そのためジョセフHCは連日、記者から山沢に関する質問を受けてきた。試合後の会見では、大器の長所と課題を前向きに語っていた。 「メディアの方たちからの山沢への期待度は、非常に高いと感じています。きょうはトライを取りに行きたすぎてしまった。パスすべきシーンがあった。ただ、ポテンシャル、スキルは素晴らしい。ビッグゲームに勝つのに必要な特殊能力を、彼は持っている」 一方、本職と違うインサイドセンターで起用されたのは松田力也だ。 山沢とは同級生で、今春からパナソニック入りする22歳。大学選手権8連覇を果たした帝京大では1年時から主力となり、強気の走りで防御網をぶち抜いた。前方のスペースへのキックも多用し、身体の大きな味方フォワードを助けてもきた。 この日は目の前のタックラーを引き付けながらのパスで、受け手を快適に走らせた。守っては飛び出したタックラーの背後をカバーし、こぼれ球にも鋭く反応した。堅実な積み重ねで魅した。 日本代表は6月、欧州6強の一角であるアイルランド代表などとテストマッチをおこなう。この時期はスーパーラグビーが中断されるとあって、サンウルブズ勢を含めたベストメンバーが集まる。サンウルブズのニュージーランド人スタンドオフで5月に代表資格を得るヘイデン・クリップスも含め、ポジション争いに加わる面子は多士済々だ。 2019年のワールドカップ日本大会に向け、背番号10争いの先頭集団を走るのは田村と小野か。本番では2~3名程度のスタンドオフが登録されるだろうが、その枠にARC組が入る可能性も少なくはない。 ただ、ARC組が争いに割って入るのには、以下の2つの要素での積み上げがマストになるかもしれない。 「正しいプレー選択」と「試合中の細かいコミュニケーション」だ。 例えば身長171センチと小柄な小野は、ボールを持っていない時も含めた目配りに基づく「正しいプレー選択」で周りの信頼を勝ち取っている。かたや韓国代表戦に先発した小倉は「中盤でこちらが攻めている時に、もっとシンプルに蹴ってもよかった」。フォワードを軸にした組み立てという「正しいプレー選択」もあったが、キックを使う判断については反省しきり。前半終了間際に失点した展開を振り返り、こう続けた。 「フォワードのエナジーをセーブしていく(のが大事)。前半の後半あたり、(チームが)疲れてしまっていた。その辺は、変えていきたいです」 「試合中の細かいコミュニケーション」については、サンウルブズでもプレーする先発フォワードが興味深い談話を残す。いま一緒に戦っている3人の才能を称えながらも、彼らに勝る田村の凄みを強調する。 「田村優さんは、皆が返事をするまでずーっと喋って、周りをコントロールしています。だから、一緒にやっていて安心感があります」 この点については、最近まで大学生だった2人にも自覚症状はあるだろう。山沢はチーム練習後、声が良く通る小倉に誘われて「クリアな指示を出すトレーニング」を繰り返す。複数の位置を任されそうな松田は、「もっと指示を出せと言われています。そこは、優さんを見習ってやっていきたいです」と口にしていた。 ジョセフHCは、3人にこう奮起を促すのだった。 「これは若いスタンドオフ全員に言えることですが、各チームでは皆、自信に満ち溢れた試合運びをしている。これからの課題は、(代表のように)周りに経験者がいるなかでゲームコントロールをできるか、です」 もともと光っている有形の力(ラン、パス、キック)を磨きながら、無形の力(判断力、コミュニケーション)の面でも熟練者に追い付きたい。3人のタレントは、そう心で誓っている。本番までに、いまの序列を覆したい。 (文責・向風見也/ラグビーライター)