なぜ大谷翔平は48打席も本塁打から遠ざかったのか…「四球攻め」の真実と「1番起用」のジレンマ
一方、左投手はコース以上に球種に大きな変化が見られた。前半はスライダーの比率が30.4%でトップ。続いてフォーシームが25.1%、シンカーが20.1%だった。この3球種で全体の4分の3を占める。 しかし後半は、スライダーが50.4%、フォーシームが28.1%。この2球種でもう8割近い。そして、スライダーを外角低めに集めるのが鉄則。遠く外れるボールも少なくなく、「追いかけて空振りしてくれたら…」、「引っ掛けて内野ゴロに…」と考えてコントロールミスを犯すぐらいなら、しっかり外せ、という指示が透けて見える。 冒頭で紹介した場面。ブルールは5球目でコントロールミスをした後、それは大谷のミスショットに助けられたが、最後ーー6球目のスライダーは、遠く外れた。「色気を出すな」という声がベンチから飛んだか。 では、なぜこういう配球になったかと言えば、前半の成績はもちろんだが、大谷自身が口にした、“今の状況では”という部分も大きい。 マイク・トラウトが右ふくらはぎの張りで戦列を離れたのは5月半ばのことだが、その後、ジャレッド・ウォルシュが、大谷の後ろを打つようになった。ほぼノーマークの彼が打ちまくると、相手としては大谷とある程度、勝負することを迫られた。オールスターゲームにも選ばれたウォルシュの存在が、効いていたのである。 そういう存在を大リーグでは「プロテクション」と表現するが、そのウォルシュも後半に入って負傷者リスト入りすると、代わる選手もいなくなり、大谷に対する今の攻めが顕著となった。よってマドン監督も8月に入って、こう嘆いたのである。 「強打者なら避けては通れないことなのかもしれないが、プロテクションを失ったのは大きい」 8月10日のダブルヘッダー2試合目からデビッド・フレッチャーと大谷の1、2番を入れ替えたのは、打率が3割を超え、好調なフレッチャーを大谷のプロテクションとして使ってみよう、という意図である。 ウォルシュが11日に復帰し、大谷は「後ろに、フレッチャー、ウォルシュがいることによって、ゾーン内に来ることが、普通のときより多くなると思うので、よりアグレッシブにいける」と話したが、さすがに数試合で傾向を導くには無理があり、少なくともウォルシュが試合勘を取り戻すまでは、「1番・大谷」が続くのではないか。 ところで前半、相手バッテリーは大谷に対して、どう配球を組み立てていたのか。オールスターゲームのとき、マイク・ズニーノ(レイズ)に聞くと、「右投手なら、大谷の左足方向に沈みながら曲がっていくバックフットのスライダーか、ナックルカーブ。それが軸になる」と明かした。 「この球をフィニッシュに使うのか、カウントを稼ぐのか、それは投手にもよるけど、そういうスカウティングリポートだった」 もっともレイズは今季、6試合で大谷に5割近く打たれ、ホームランを4本許している。 「そうなんだ(笑)。少しでも浮くと捉えられるし、その過程でやられるケースもあった。想定を超えたのは、ホームランも含めて、大谷が打てるコースが広くなっているということ。投手というのは、『この辺りに投げておけば大丈夫』と考えられるとき、そのイメージ通りに投げられることが多いけど、『ここに投げちゃいけない』と考えると、得てしてそうなる。今年は投げてはいけないコースが多すぎて、どうしても投手は後者の心理になりがち。後半はもう対戦がないから助かるよ」 さて、大谷は今の状況をどう脱するのか。 11日のブルージェイズ戦で14戦、48打席ぶりとなる38号を放つと、「(本塁打の前の打席も)角度も出ていましたし、打ちにいってる感じも良かった」と話し、こう続けている。 「結果的にライトフライでアウトにはなったんですけど、いい時っていうのは打つべくしていい結果が生まれる時が多いかなというのを改めて感じた」 まだ、復調の手掛かりをおぼろげながら掴んだだけなのかもしれないが、去年の不振が、動作解析など新たな取り組みを試すきっかけとなり、今年の飛躍に繋がった面はある。 このジレンマをどう糧とするのか。そこにさらなる高みにたどり着く答えがあるのかもしれない。 (文責・丹羽政善/米国在住スポーツライター)