EUとの対立深めるハンガリー、難民受け入れ巡り
ハンガリーのオルバン・ビクトル首相率いる政権は、移民・難民政策を巡って欧州連合(EU)との対立を深めている。同国は現在、欧州理事会の輪番議長国を務めており、EU域内の議論や手続きなどに影響力を持っている。この機会を利用して、オルバン政権は移民や難民を巡る他の加盟国との緊張をさらに強めている。 移民問題を巡るEUとの長年の緊張関係について、ハンガリーのレトバリ・ベンセ内相は公共放送コシュートラジオで、EUがハンガリーに不相応な数の亡命希望者を受け入れさせようとしていると語り、これはハンガリーの主権の侵害に当たると訴えた。英字紙ブダペスト・タイムズによると、ハンガリーは移民・難民問題を巡ってEUに異議を唱えるための法的手段を検討しており、すでに国境のインフラ整備に多額の費用を費やしているという。 EUの最高裁判所に当たる欧州司法裁判所は6月、難民の入国禁止を是正するよう命じた2020年の判決に従わなかったとして、ハンガリーに2億ユーロ(約319億円)の制裁金を科した。裁判所の判決に従うまで、ハンガリーには1日当たり100万ユーロ(約159万円)の追加制裁金も科される。これに対し、ハンガリーのオルバン首相はEUによる「脅し」だと非難。同国のグヤーシュ・ゲルゲイ首相府長官は8月、この追加制裁金を無期限に支払い続けるつもりはないとして、難民にはいったん入国を許可した上で、EU本部のある「ブリュッセル行きの片道切符を提供する」と述べた。 オルバン首相はロシアのウラジーミル・プーチン大統領との関係を維持しており、ウクライナ侵攻のほか、移民問題や法の支配など、数々の問題を巡ってEUと長い間対立してきた。移民問題を巡っては、オルバン首相はかねてより、EUが域外との境界を防御せず、域内の自由な移動を定めたシェンゲン協定締約国の主権を守っていないと批判している。 ハンガリーでは2015年のいわゆる「欧州難民危機」の際に亡命申請が急増し、同年に18万人近くの申請者を受け入れた。だが、その後の数年間は難民危機を受け、ハンガリー政府が国境設備を整備したことと、亡命申請者の多くがドイツなど西欧の加盟国に定住することを望んだことから、受け入れ数は大幅に減少した。 オルバン首相は「ポピュリズム」とも形容される手法で、国民からの支持率を高めるために移民や難民といった政治的に負荷の高い問題を利用し、EUに対して挑発的な姿勢を取っている。同首相率いる与党「フィデス・ハンガリー市民連盟」は、6月に行われた欧州議会選挙で過去最悪の結果を残したものの、最終的には勝利を収めた。翌7月にはハンガリーが欧州理事会の議長国に就任し、反移民を掲げるオルバン首相がEUに対する挑発を一層強めている。 議長国に就任した際、ハンガリーが「欧州を再び偉大に」と表明したのは、同じくポピュリスト的な米国のドナルド・トランプ前大統領が唱えた「米国を再び偉大に」という表現を意識したものであることが見て取れる。難民をEU本部のあるブリュッセルに送るというハンガリーの強硬な提案には、米共和党議員による近年の同様の姿勢との関連性も見えてくる。 ハンガリーは今年末までEUの議長国を務め、その後はポーランドが引き継ぐ。
Frey Lindsay