ブリング・ミー・ザ・ホライズンが語る、脱退劇の真相、再生したバンドの遺伝子
「作品は然るべき時に然るべくして生まれてくる」
筆者はサイクスに、明らかな既視感について語った。というのも、リリースされたばかりの最新アルバムのキャンペーンについて、彼は数年前に語っていたからだ。「あのロサンゼルス遠征は不毛だったよ」。言うに及ばないことを口にして、彼は笑った。 朝食用カウンターで、彼はフィッシュとのクリエイティブ面における関係性について語った。それはスピードを重視し、何があろうとも突き進むことを信条としていた。サイクスは自身のメンタルヘルスとウェルビーイングを優先するためにそのメンタリティを放棄しなくてはならなかったが、フィッシュは期日に拘り、コンスタントに作品を発表し続けるべきだと考えていた。「彼にこう言ったんだ。『オーディエンスが怒ったって知ったことか。1年に4枚のレコードを出すっていう約束が果たせなかったって、俺は気にしない』」とサイクスは話す。「そういう時、俺はいつもカニエ(・ウェスト)を引き合いに出してた。彼は約束を破ってばかりいるけど、平気みたいだからね。誰よりも先にそれをやり遂げなくちゃならないっていう考えとその期日を、俺は放棄することにした。自問自答を延々と繰り返した結果、作品は然るべき時に然るべくして生まれてくるって考えられるようになったんだよ」 『Survival Horror』の思いがけない成功は、そのスタンスの根拠になった。バンドはその地位に伴う役目を果たさなくてはならなかったからだ。キャリア史上最大規模の会場を巡るワールドツアーを行い、BRITアワードを受賞し、レディング&リーズ等の大型フェスでヘッドライナーを務め、結果的にアルバムのリリースを遅らせることになった。その後バンドは2023年9月に『NeX GEn』をリリースすると発表したが、その計画は実現しなかった。その期日を過ぎた直後に、フィッシュはバンドを脱退する。12月にはバンドの公式チャネルとフィッシュ個人のアカウントから、それぞれ脱退に関する形式的なステートメントが公表された。その文言から読み取れる唯一の含意は、一方的ではないにせよ、決定が主にバンド側でなされたということだった。 フィッシュ脱退の理由について、ファンの間ではさまざまな憶測が飛び交った。印税をめぐる口論、フィッシュが子供たちと過ごす時間を欲しがった、そして『NeX GEn』での方向性の食い違い。本当の理由は、時間をかけて納得のいくものを作ろうとしたサイクスと、ひたすら前に進もうとするフィッシュの衝突とは他にあったのではないか? 「正直なところ、そうじゃないんだ。クリエイティブ面に関することは主な理由じゃなかった」。サイクスは消極的にそう認める。「バンドとしていい状態にあるとは言えなかった。あまり語りたくないんだ、エキサイティングなストーリーではないから。『方向性の違いで別の道を進むことにしたけど、俺たちはこれからも友達だし、彼の幸運を願ってる』なんて嘘っぱちを並べ立てるつもりはない。円満な脱退なんてものは存在しないんだよ。メディアが喜びそうなエピソードなんてない。バンドとして機能しなくなっていた、ただそれだけなんだ。彼はこれ以上このバンドにいることはできなかった。抜けるしかなかったんだ」 サイクスは随分前から摩擦に気づいていたと述べた上で、その決定が熟慮の末になされたことを強調した。「彼のことを悪く言いたくない。彼はいいやつだし、素晴らしいアーティストだから。2度と口をきかないとか、今後コラボレートする機会を永遠に閉ざしてしまうようなことが起きたわけじゃないんだ。誰も死んでいないし、何か決定的に悪いことがあったわけじゃない」。彼はそう話す。「俺たちは長い時間を一緒に過ごしてきて、いい時もあればそうじゃない時もあった。頭を抱え込んで『俺は何をやらかしたんだ? どうすればいい?』と苦悶したこともある。最終的に、それが全員にとってベストの決断だと結論づけたんだよ、ジョーダンも含めてね。彼はこれからもその素晴らしい才能を発揮して、いろんなバンドをよりクールに生まれ変わらせるだろう」。フィッシュは既に、メタルコアバンドのアーキテクツ、ポップバンドのバステッド、オルタナティブアーティストのポピー等の作品に参加している。ブリング・ミー・ザ・ホライズンのファンはネット上で、フィッシュの創意工夫とスキルが停滞するロックというジャンルに刺激を与えてくれるはずだと繰り返し主張している。