インバウンドへの「二重価格」導入がもたらす思わぬデメリット。「制度浸透で物価上昇が加速する」は本当か?
観光国として魅力を失いかねないデメリットあり
「日本人は安く買えて、店の利益も上がって一石二鳥」というように、日本国民にとってメリットが多いように思えてしまう二重価格だが、なぜ今議論が活発になっているのだろうか。 「二重価格について、自国民が安く買えたり、店の利益が上がったりするというようなメリットから二重価格を導入すべきだという日本人の方も多いですが、実はこれは一時的なメリットにすぎません。 現在SNSなどが発達している関係で、店の評判などはネット上で言語の壁を越えて瞬く間に拡散されます。“外国人だけに高く売る店”という悪いクチコミが広がれば、観光客が来なくなってしまうというデメリットもあるんです。二重価格は一見メリットが多いように思えても、長期的に見ればむしろ観光立国としての集客力を失いかねないものなのです」 続けて細川氏は二重価格導入の難しさについてこう語る。 「例えば、外国人に人気の日本カルチャーをコンセプトにした商品やサービスを開発し、観光客向けに値段を高く設定するようなお店ができたとします。 こうした“いかにも日本らしい”要素を集めた観光地を楽しむ観光客ももちろんいますが、旅の醍醐味として、現地の日本人が通うような“(意図的に作られた空間ではない)ローカルな場所”を求めて来る観光客もたくさんいるのです。 現地の暮らしぶりを肌で感じたい観光客にとっては外国人向けサービスに魅力を感じないこともあるため、需要がそこまで見込めないという可能性も出てきます。外国人向けに価格設定をするということはそう簡単なことではなく、需要や流行など考慮すべき要素が多くあるのです」
もし二重価格を導入したら…私たちの暮らしはどうなる?
二重価格の導入は簡単にはいかなそうだが、そうは言っても外国人観光客が急増する今、需要に合わせた経営で利益を上げたい店も多いはず。今後二重価格が浸透した場合、観光地に暮らす人々の暮らしはどう変化するのか。 「もし二重価格が定着し、それでも外国人客が押し寄せる状況になれば、店側としては安い価格でしか買ってくれない日本人を排除する動きが出てくるかもしれません。 そうなると観光地の物価は外国人ベースのものになり、物価上昇が加速するなど、日本人の生活を脅かす状況にもなり得るでしょう」 ――年々、外国人観光客が増えるとともに議論され続けている二重価格。「日本人は安く買えて、店の利益も上がる」というメリットだけではなく、その裏には外国人観光客からの反発や日本のイメージ低下、さらなる物価上昇など、さまざまなリスクが潜んでいた。 短期的なメリットを追い求めるのか、長期的なデメリットも加味して対策していくのか、二重価格の今後に注目したい。 取材・文/瑠璃光丸凪/A4studio 写真/Shutterstock
瑠璃光丸凪/A4studio