インバウンドへの「二重価格」導入がもたらす思わぬデメリット。「制度浸透で物価上昇が加速する」は本当か?
円安が続く日本で、訪日外国人と日本人・在留資格を持つ外国人の間で異なる価格設定をする「二重価格制度」の議論が盛り上がっている。二重価格が今後導入されるとしたら私たちの生活はどう変化するのか。日本の消費者に関わる法律にくわしい日本女子大学名誉教授の細川幸一氏に話を聞いた。 【画像】入場者の約30%が外国人だといわれている日本の名城
円安による観光客急増で「二重価格」についての是非が問われる
円安が続き、外国人観光客が増加し、オーバーツーリズムが問題化している日本。そんななか昨今議論されているのが「二重価格」の是非だ。 「二重価格」とは1つの商品に2つ以上の異なる価格を設定することで、現在日本で注目されているのが、日本人よりも外国人観光客の価格を高く設定するという「外国人観光客向けの二重価格」の導入だ。 例えば兵庫県の姫路市にある観光名所「姫路城」の入場料をめぐって、姫路市の清元秀康市長は、外国人観光客と日本人の間で価格に差をつける考えを示し、入場料の見直しを検討すると発表した。 入場者の約30%が外国人観光客だという姫路城は、オーバーツーリズム(観光公害)の影響が顕著であるため、観光客からの収益を城の維持や修繕費用として充てると市長は説明している。 二重価格についてネットでは〈導入してもいいのでは。世界を見渡しても、外国人料金の設定があるのは珍しくはないですよね。交通費や入場料やら〉と賛成の声がある一方、〈これって外国人差別にならないの?〉と問題視する声も見られている。 一方、海外の文化財や公共施設では二重価格が導入されているケースは多々ある。 例えば、カンボジアの名所であるアンコールワットは、外国人観光客の1日入場券が37ドル(約6000円)で、カンボジア国民は入場無料となっている。この背景には観光客による混雑を抑える目的や、観光サービスの財源確保などがあるようだ。 では日本における二重価格の導入はどこまで可能なのだろうか。今回は二重価格による影響について考えていきたい。
厳密な“二重価格”は足踏み、しかしサービス料として…
日本における二重価格はどれほど進んでいるのか、その現状について細川氏が説明する。 「現在の日本において二重価格を厳密に実施しているところは少ないでしょう。実施しているとしても、“接客の手間がかかるからサービス料として徴収する”など、外国人というだけで差別的に価格を設定しているわけではないことを前提とした理由付けをしている場合がほとんどです。 やはり“外国人だから高くする”というシンプルな理由で実施することは、世間から批判されるリスクをはらんでいるため、設定に踏み切れない店や施設が多いのではないでしょうか」 東京・渋谷区にある海鮮食べ放題の店「玉手箱」では、通常価格を7,678円とし、日本人と在日外国人の場合はそこから1,100円割引の6,578円で食べられるのだ。 店長によると、観光客に対して食べ方の説明などで接客に時間がかかることを理由に異なる値段設定をしたという。しかしこうした外国人価格を設定する店舗は国内でも珍しく、観光地の多くの店では完全な二重価格には踏み切れていない状態なのだ。