【現場ルポ】潮干狩り気分で「レジャー密漁」を直撃 「ついうっかり」「わずかなアサリ」が前科に
■罪を犯している意識がない 「皆さん、罪を犯しているという意識があまりないように感じます」と、船橋市漁協の中村繁久組合長は嘆く。 三番瀬周辺はのどかな浜辺だが、漁協は高性能なカメラで24時間、密漁を監視している。記者が漁協を取材した前日にも、1人が捕まったという。 パトロール中の海上保安官に摘発されたのは22歳の男性だった。「わずかなアサリ」を獲っていたところ、漁業権侵害の容疑で書類送検されると告げられて、初めて罪の重さを知った。こんなことで「犯罪者」になるとは、想像もしていなかった。 「この春に就職したばかりの若者が、『不注意で貝を獲ってしまった』と謝罪に来ました。これから送致されるわけですが、長い人生なんだからしっかりやっていきなさい、と諭しました」(中村さん) 1週間前にも同様なケースでカンボジア国籍の男性が摘発されたという。 「我々、漁業者にとって密漁は放置するわけにはいかない切実な問題です。少しの密漁でも大勢の人が行えば、漁業資源が損なわれてしまう。明確なルールがあるわけですから、それを徹底せざるを得ません」(同) ■獲り尽くされたカキ 漁業権が設定されていないため、わずか数年でカキがほぼ獲り尽くされてしまった場所が近くにある。三番瀬の西側に注ぐ江戸川の河口には、かつてカキが群生する「カキ礁」が点在していた。 環境美化に取り組む市民団体「妙典河川敷の環境を守る会」の藤原孝夫会長は言う。 「5年ほど前から、カキを獲る外国人が集まるようになったんです」 きっかけは、江戸川河口に「無料の潮干狩り場がある」というクチコミが広まったこと。5月の大潮の日を中心に100人以上がやってくるようになった。 驚くべきは彼らが採取したカキの量だ。 「1人40~50キロは獲っていたんじゃないかな。それを買い付けに車で来る人もいました」(藤原さん)
彼らは獲ったカキをその場でむき、殻を川や河川敷に捨てた。膨大な量のカキ殻が放置され、水辺で遊ぶ子どもたちがけがをする事故も発生した。 藤原さんが仲間とともにカキ殻を回収したところ、なんと150トンにもなった。昨年、市川市はカキ殻の不法投棄を5000円の罰則付きで禁止する条例を施行した。 同じ日、記者が現地を訪れると、アサリやハマグリなどを獲っている人々がいた。ほとんどが日本人だった。 「昔はカキがいっぱいあったんだけど、獲り尽くしちゃったんですよ」と、藤原さんはため息をつく。 岸辺の草むらには大量のカキ殻が残され、漁業権で管理されない水産資源の行く末を物語っていた。 ■「うっかり密漁」で前科がつく 漁業権があり掲示を出していても、一般人によるレジャー密漁はむしろ増加している。千葉海上保安部の担当者は、漁協から取り締まり強化を要請されているという。 「レジャー感覚の密漁であっても法令違反が確認されれば、粛々と捜査します」(海保の担当者) 潮干狩りや磯遊びの延長の「うっかり密漁」でも、前科がつく可能性は十分ある。初夏のレジャーは気をつけて楽しみたい。 (AERA dot.編集部・米倉昭仁)