サステナブル経営には「コンパッション」が不可欠 研究者が提案する実践方法とは
ビジネスの世界で「コンパッション」という言葉を耳にすることが増えてきた。リーダーシップや従業員のウェルビーイングの向上、ストレス軽減など、多方面でその価値が認識され始めている。 「コンパッション」とは、もともと仏教で「慈悲」や「思いやり」を示す言葉だ。この考え方が現代の企業やリーダーに必要だと提唱するのが、組織行動とリーダーシップの専門家である若杉忠弘氏。コンパッションを核とする企業文化は、持続可能性と成功への確度を大きく高めるという。その理由や実践方法について聞いた。(聞き手 朝日新聞SDGs ACTION!編集部・池田美樹)
コンパッションとは何か
――コンパッションとは具体的にどのようなものですか。 苦しむ他者に対して自然に湧き上がる思いやりの感情と、その人を助けたいという動機付けです。これは、誰もが本能的に持つ能力です。 例えば、目の前で小さな子どもが転んで泣き出したら、どうしたのと言って起こしますよね。すると、子どもがほっとした顔をします。この時、どう思いますか? ――うれしいですね。 うれしいですよね。これがコンパッションです。苦しい人がいたら、私たちは本能的に駆け寄って助けたいと思います。助けてあげたら相手が喜んで、自分もうれしい。コンパッションの働きによって、苦しみが喜びに変わり、双方がよりハッピーになります。 コンパッションをもっと具体的に説明すると、相手を俯瞰(ふかん)的な視点で理解する力、相手に共感する力、そして相手を助けたいと思う力、これら3つが核となります。 コンパッションを育む第1ステップは、セルフ・コンパッションです。相手を助けるためには、まず、自分に対して思いやりを持つ必要があります。 飛行機に乗るときのガイダンスを思い出してください。自分が酸素マスクをつけてから、子供や周りの人にマスクをつけますよね。それと同じです。 そうすると自分に余裕が生まれ、同僚やメンバー、他部署や提携先、クライアントにコンパッションを向けることができます。 セルフ・コンパッションは、一見、やさしく、穏やかなイメージですが、実際には優しさからイノベーションのような強さが引き出されていきます。