房総半島沖でスロースリップ現象を確認 今後千葉県沖で震度5弱程度の地震に警戒を
解明に向けさまざまな研究で挑戦続く
スロースリップ現象に対する研究は1990年代から始まったが、盛んになったのは観測技術が進歩した2000年代に入ってからだ。日本だけでなく世界中のプレート境界でこの現象の検出報告が相次いだ。東日本大震災の前にこの現象が起きていたことが分かり、さまざまな研究機関による調査研究に拍車がかかった。
海洋研究開発機構(JAMSTEC)は国際深海科学掘削計画(IODP)の一環として地球深部探査船「ちきゅう」を運用して2007年から19年まで長期にわたり紀伊半島沖や高知県室戸岬沖で掘削調査を続けた。一連の調査には東京大学や産業技術総合研究所、筑波大学なども参加している。07~08年に実施された研究航海では海底下400メートルを超える南海トラフの沈み込み付近でプレート境界断層の「コア試料」を採掘。試料の解析から津波を生じさせる高速すべりの痕跡を確認した。
「ちきゅう」は2016年に室戸岬沖の南海トラフで海底下700メートル超のプレート境界断層をも貫通する掘削作業を実施した。地下深部で流体が噴出する様子を撮影することに成功し、プレート境界に厚さ数十メートル、水平方向数百メートルの広がりを持つ高圧の“水たまり”があることを突き止めている。JAMSTECは一連の調査研究から研究対象の海底では高速のすべり現象の後に低速のすべり、つまりスロースリップ現象があったとの見解を示した。
このほかにも京都大学や神戸大学、九州大学などがこの現象の解明に向けてさまざまな調査研究を行い、新たな成果を発表している。京都大学防災研究所などの共同研究グループは「日本海溝海底地震津波観測網(S-net)」など多くの地震観測データを活用して、日本海溝付近のスロースリップ現象が東北地方太平洋沖地震の拡大を阻止したとの興味深い研究成果を2019年8月に発表した。この現象がなかったら地震規模はさらに大きかったとの見方だ。
神戸大学はまた、豊後水道や房総半島沖などで発生したこの現象に関するデータを解析し、発生前後のプレート境界付近のゆがみの蓄積と解放とに関する貴重なデータを2023年2月に発表している。