【社説】国立病院で虐待 障害につけ込む人権侵害
耳を疑う人権侵害だ。弱い立場にある人を守るはずの病院で、尊厳を踏みにじるなどあってはならない。 福岡県大牟田市の国立病院機構大牟田病院は、男性職員5人が入院患者11人を虐待した疑いがあると公表した。 病院が障害者虐待防止法に基づき患者の居住市町村に通報し、自治体は介護福祉士とヘルパーの2人による男女6人への性的虐待を認定した。別の介護福祉士1人の事案は認定されず、看護師2人については調査中という。 被害者は難病の筋ジストロフィー患者や重症心身障害者らの病棟に入院している。重度の障害で体を動かせず、意思疎通が難しい人が多い。 女性患者が昨年12月に被害を訴えて発覚し、調査を進めるうちに実態が明らかになった。被害者の一人は「怖くて拒否できなかった」という。 病院側の説明は釈然としない。院長は記者会見で、職員が介護や医療行為の一環と考えていた可能性があり「どうして行ったのか、はっきりしない」と述べた。介護と虐待の間にはグレーな部分があり得るとの見方も示した。 認識が甘いのではないか。自治体が認定したのは明らかに卑劣な行為だ。入浴時に患者の陰部を素手で洗い過剰に刺激し、わいせつな声かけをしたり、就寝時に陰部を直接もんだりした。家族への説明会で「虐待ではなく犯罪」と批判されたのは当然だ。 職員同士で示し合わせて虐待した形跡はないという。であれば虐待を許す空気が広がっていたとも考えられ、むしろ深刻だ。 倫理観や知識の欠如など、職員個人の資質に最大の問題がある。虐待への理解や適切な介助技術について研修を深めなくてはならない。 一方で病院の管理体制には重大な不備がある。虐待の多くは夜間に一対一の状況で起きた。同性同士や複数人で患者に対応する原則が徹底されていなかった。 虐待が疑われる行為を遠目にしていた職員もいたが、上司や自治体の窓口に相談、通報をしなかった。障害者虐待防止法は気付いた人に通報を義務付ける。相談しやすい雰囲気をつくり、報告体制を整える必要がある。 障害者虐待は全国の施設で増えている。厚生労働省の2022年度の調査では、被害者が過去最多の1352人だった。今回のような療養介護施設は1施設当たりの虐待数が多い。重症で意思疎通が難しく、他の受け入れ施設も限られる。加害者はそうした患者の苦境につけ込んだのではないか。 国立病院は、民間では採算や技術面で対応が難しい重症患者が安心して過ごせる「最後のとりで」だ。そこで虐待が起きた影響を関係者は深刻に受け止めてもらいたい。 大牟田病院は弁護士や福祉専門家らによる第三者委員会を設置した。実態を解明し、再発防止につなげるべきだ。
西日本新聞