中央大学後楽園キャンパスで理系の学生向けに提供が始まった「Chu活ボット」＝東京都文京区の同キャンパスで、朴泰祐撮影

　学習データをもとに、あたかも人間が作ったような文章などのコンテンツを作り出す生成AI（人工知能）。就職活動の早期化が進む中、忙しい学業と就活の両立を手助けしようと、この生成AIを就職活動に利用する取り組みが急ピッチで拡大している。就活生なら誰もが経験する対人面接の練習用に、生成AIを用いたシステムを導入した中央大学の取り組みを取材した。【中央大・朴泰佑（キャンパる編集部）】 【図解でわかる】こんなに…人気企業の賃金格差 　◇模擬面接官が練習相手 　同大学キャリアセンターは4月、「Chu活（チューカツ）ボット」と名付けた就活面談練習システムを、理工学部の学生を対象に導入した。パソコンを利用するこのシステムには、3Dアバターと呼ばれる立体的なキャラクターが模擬面接官として登場。この模擬面接官を相手に、音声で自己PRやガクチカ（学生時代に力を入れたこと）のほか、自分が専攻した研究内容についての説明や質問への受け答えなどの練習ができる。 　驚くべきはその精度だ。記者も実際に体験してみたが、正確にこちらの音声を認識し、的確な質問を投げかけてくれる。また面接練習だけでなく、終了後、即座に面接の出来について評価し、やりとりした内容の文字起こしまで行ってくれる至れり尽くせりのシステムだ。 　画面上の3Dアバターが相手なので、気楽に練習が行えるというのも大きな利点だ。同大キャリアセンターの五十嵐星汝・理工キャリア支援課長は「いきなり本物の面接官相手だと緊張してしまう。そんな対人面接に慣れていない学生に、本番前の練習としてぜひ体験してほしい」と話した。 　◇回答に合わせて深掘り質問も 　五十嵐課長はまた、「面談を機械的に着々と行ってくれる点も生成AIの強み」と説明する。人間とは違い、長々とアドバイスやお説教をせず、端的に評価をくれる。その分、自身の考えをまとめる第一歩として、同システムは最適なツールだという。 　このシステムを開発したのは、昨年3月に同大学大学院理工学研究科を修了したOBの水谷林太郎さんだ。3Dアバターが投げかける質問の種類は非常に豊富で、決められた質問だけではなく、生成AIの強みを生かし、学生の回答に合わせて深掘り質問も考えてくれる。さらに、面接の難易度は3段階、練習時間は1分から10分までの4段階に分かれているため、学生のニーズに合わせて無理なく面接練習を行える。 　同システムを利用した学生の面接の出来を判定する評価基準の基礎となるのは、七つのカテゴリー、31のキーワードで設定されている中央大学が独自に開発した行動特性（コンピテンシー）である。模擬面接の後は、傾聴力、読解力、記述力、提案力、議論力の各項目を5点満点で評価してくれる。 　実際にこのシステムを利用した学生を対象に実施したアンケートでは、「曖昧な発言内容に対して深掘り質問をしてくれた」「本番の面接の参考になった」などの前向きな感想が多く寄せられたという。記者自身も、就活において大きな助けになるという印象を受けた。 　ただ一方で、同システムが推奨する発言時間は30秒に制約されており、学生からはもっと長く話したいとの声も上がっている。だが、五十嵐課長は「就活の面接では必ずしも長く話す必要はない。演説ではなく、会話を心掛けてほしい」と指摘する。 　簡潔に発言する練習を積み重ねることで、思考と回答にまとまりが生まれ、要約できるようになるという。AIと共に一定のレベルまで効率的に面接経験を積むことで、実際に人間と行う面接では、緊張が解け、スムーズな会話をすることができる。 　◇システムはさらに拡充を予定 　同システムは現在、1日3組限定で提供されている。今後はオンラインでより多くの学生が利用できるようにしたり、エントリーシートの添削などサービス内容を充実させたりすることも検討しているという。 　さらに、3Dアバターにもさらなる工夫を施す予定だ。現在はフリーキャラクターの「ユニティーちゃん」だけが使われているが、今後は同大の公式マスコットキャラクター「チュー王子」も模擬面接官として利用できるよう、開発を進めている。 　近年では大学3年生になった途端に本格的な就活シーズンに突入する。学業との両立は厳しくなる一方だが、五十嵐課長は「忙しい学生がより実践的に練習を積み、効率的に就活を行うためのツールとして、このシステムを活用してほしい」と話している。現在は理系の学生限定で提供しているが、今後は文系の学生や系列高校の生徒にも広げたい考えで、「Chu活ボット」に更なる可能性を感じているという。