在宅介護を円滑にさせる「対話型AI」とは?認知機能を維持する効果に期待【介護の不安は解消できる】
【介護の不安は解消できる】 今年6月、俳優の野々村真さん(60)をモデルに起用した「AI音声対話型デジタルヒューマン」が、一部の高齢者施設に導入されたのはご存じでしょうか。AIとの「会話」を通して高齢者の認知機能の改善や、介護施設での人材不足を解消させる目的で開発され、「AI×芸能人×介護」という斬新さから、メディアでも大きく報じられました。 人気医師の和田秀樹がズバリ教える「老化を遅らせる生活」 普段、なにげなく行っている会話ですが、いくつもの脳機能を複雑に組み合わせて成り立っています。まず、聞こえた音を言葉と認識し、意味を解釈して理解して過去の出来事を思い出しながら返答を組み立て、発音をつかさどる舌や口の筋肉を動かして発声します。脳をフル活用する会話は、認知症の予防に有効とされ、すでに認知症と診断を受けた方であっても、認知機能を維持させて病気の進行を遅らせる効果が高いといわれています。 高齢者施設で生活される方の中には、「気疲れしたくない……」と、食事やレクリエーション以外の時間は自室で過ごされる方も多く、気軽に会話できる相手がいないケースもまれではありません。 また、近年の高齢者施設のほとんどが人手不足に陥り、入居者との会話に充てられる時間が少なく、顔なじみの職員との会話ではいつも決まった内容にパターン化しやすい。それが生成AIであれば会話のネタが尽きることなく、常に新鮮な会話を交わせます。職員にとっては、会話にとられる時間が減り業務が進まなくなるといった問題の解消にもつながるのです。 生成AIの有効性は、高齢者施設に限った話ではありません。認知症になると、短期記憶力の低下から同じ質問を何度も繰り返すようになり、在宅で介護されている家族の中には苛立った返答をしたり、つい怒鳴ってしまった経験がある人も少なくないでしょう。 認知機能が低下していても、怒られた際に生じる負の感情は記憶されやすく、家族からとがめられたことで傷ついて自信を喪失したり、逆に興奮して家族と対立し、介護者の介護疲れにつながるリスクが高い。AIに本人が質問する頻度が高い内容を事前に学習させておくと、家族の代わりに返答してくれるだけでなく、家族は質問に取られていた時間を清掃や食事の準備など、ほかの介護に充てることができるでしょう。 生成AIとの会話は、人間のように感情を介さない分、同じ内容を何度も聞いても相手がイライラしたり、怒られることはありません。本人にとってもストレスフリーな対話が可能になるだけでなく、家族にとっても穏やかな生活を取り戻して在宅介護を円滑にさせるメリットがあるのです。 ▽塚本浩(つかもと・ひろし) 帝京大学医学部神経内科研修医、同大学医学部神経内科助教、ローマ聖心カトリック大学留学を経て、帝京大学医学部神経内科・医学教育センター助教、同大学医療技術学部臨床検査学科准教授。東京医科大学茨城医療センター脳神経内科准教授。現在は、けんせいクリニック院長、筑波大学付属病院臨床教授(病院)を務める。著書に「老化をとめる脳習慣」「これ一冊で『運転寿命』がぐんぐん延びる 2週間の脳活で合格!! 運転免許認知機能検査 完全攻略本」。